人気ブログランキング | 話題のタグを見る

探蝶逍遥記

Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)

 テングやコツバメ産卵シーン撮影に成功したこの日、実は首題2種、つまり、スジグロシロチョウ(P.melete)とヤマトスジグロシロチョウ(P.nesis)の観察がメインターゲットでした。昨年も同時期、同じポイントでヤマト♂第1化らしき個体を観察しておりますが、もう少し第1化個体画像ストックを増やして管理人なりにスジグロ/ヤマトの外観上識別点を探るのが目的。既にyoda-1さんがブログ上で、両者の識別点については精力的に持論を述べられております。yoda-1さんの見解も参考にして、今回記事を書いてみましたが、もちろん採集をしておらず、♂の発香鱗確認をしておりませんので、同定間違いの可能性が残っております。この点はご了解下さい。
 最初はスジグロシロチョウの産卵。

+++横位置画像はクリックで拡大されます+++
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_21401954.jpg
D71K-34VR、ISO=200、F11-1/400、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時17分

 ホストはイヌガラシだと思います(若葉の場合、スカシタゴボウとの識別がイマイチ自信なし)。葉の軸を画面に平行に配置した方が、見栄えが良いのですが、そうすると必ず母蝶は体軸をカメラレンズの軸に平行に向けて産卵するので、この絵のように産卵シーンとしては没画像レベルになります。つまりスジグロ産卵を狙う時は葉の軸を予めレンズ軸に平行に置いて構える工夫が要るのでしょう。産卵後、開翅休息する♀です。
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_21404363.jpg
D71K-34VR、ISO=200、F11-1/400、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時18分

 スジグロ♀は後述するように前翅中室内の暗化が著しく(黒色鱗粉の発達が著しい)、中室内の2本の黒条線が明確に出る特徴があるように思います。次いで、ヒメオドリコソウで吸蜜する♀。
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_2141268.jpg
D71K-34VR、ISO=200、F11-1/500、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時14分

 この絵は後程、裏面の比較画像として再登場してもらいます。次にヤマトの産卵。最初は産卵直前に行う前脚連打行動の絵です。
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_21412295.jpg
D71K-34VR、ISO=200、F11-1/500、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:11時59分

 試している葉はこれもイヌガラシと思われます(葉縁の切れ込みがもう少し深ければスカシタゴボウと断定できますけど、管理人の知見レベルではこれ以上の同定は不可)。一旦♀はこの葉から離れた後、舞い戻ってきて産卵をいたしました。
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_21413969.jpg
D71K-34VR(トリミング)、ISO=200、F11-1/500、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:12時00分02秒

 画面右上囲みが拡大像で、矢印が卵。この後、別の株にも産卵しました。
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_21415893.jpg
D71K-34VR(トリミング)、ISO=200、F11-1/500、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:12時00分20秒

 ここでは合計4回ほどの産卵行動を観察しましたが、いずれも葉裏ではなく葉表に産卵しておりました。管理人の乏しい経験では、スジグロの産卵位置はホストによらず全て葉裏。葉表に産むのがヤマト固有の行動パターンなのか?もう少し観察事例を増やしたいところです。実を言うと、この個体がヤマト♀であるか、最初は半信半疑でした。しかし、同定の助けになったのが、産付された卵の形状特徴。以前、ブログ仲間のtef_teffさんがスジグロ/ヤマト両者の卵および初齢幼虫を比較している記事
がありまして、ここで紹介されている微妙な卵形状の差異がヒントになりました。その卵の拡大像比較です。
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_21425471.jpg
TG2@18mm(トリミング:スジグロのみ2枚深度合成)、ISO=1600(スジグロ)/400(ヤマト)、F14(スジグロ)/18(ヤマト)-1/100(スジグロ);1/200(ヤマト)、内蔵ストロボ(内蔵LED)、撮影時刻:10時07分(スジグロ)/12時18分

 先ず、産卵直後の卵の色合いですが、tef_teffさんが指摘されているように、スジグロが青白いのに対し、ヤマトは薄黄色です。形状はシロチョウ科に共通する砲弾ないしは紡錘形状ですが、スジグロは中間で少し太くなり、先端で急に窄まるコーラ瓶形状の様相。一方、ヤマトは底面からほぼ一定の太さを持続し、先端へ向かって緩やかに窄まる特徴があります。全体のバランス上、先端直径はヤマトの場合は少し細めの印象になります。なお、この比較画像で示したスケールはヤマトにのみ有効なので、両者卵の寸法比較はできません。今後、きちんと両者寸法比較をしてみたいと思います。
 以上の卵形状の差異、更には表翅斑紋も考慮に入れて、↑の一連画像をようやく「ヤマトの産卵シーン」と確信できました。
 次に一番識別が難しい♂の探索です。相当数の個体を観察した結果、「かなりの確率でヤマトと推定される」♂を発見。クサイチゴでの吸蜜シーンです。
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_214325100.jpg
D71K-34VR、ISO=100、F11-1/320、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:9時29分

 ヤマト/スジグロを裏面側から識別する場合、前翅中室と後翅肩脈双方がきちんと把握できる画像を撮る必要があります。概ね吸蜜時には前翅を高く上げてくれるので、吸蜜シーン撮影が同定には極めて有効と思われます。気温が低い時はすぐに開翅して前翅を後翅内に折りたたんでしまうので、この時は表翅の斑紋から区別するしかないのです。
 次に参考としてスジグロ♂吸蜜シーンもご紹介しておきましょう。残念ながらこちらは当日まともな絵を撮れず、昨年撮影分です。
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_2144192.jpg
D71K-34、ISO=400、F11-1/800、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時40分(2014年4月下旬)

 ここで♂♀裏面の比較をしてみたいと思います。最初は♂。
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_2154343.jpg


 識別形質としては2点あり、①肩脈(矢印#1)形状と、②前翅中室内にある細い黒条(矢印#2および#3)の出現状況です。①は学研標準図鑑p.62でコメントされている点で、ヤマトの場合は後翅翅脈に載る黒色鱗粉の巾が太く、肩脈の存在を消すほどに発達しております。一方、スジグロは後翅基部の橙色部の面積がヤマトに比較して広く、細く尖った黒い肩脈が明確に確認できます。もちろん♂にも個体変異があり、スジグロに近似した肩脈形状を示す個体もいるので注意が必要です。②も個体変異があるのですが、一般にヤマトでは黒条#3の発達が悪く、スジグロでは#2,#3の2本共に明確な個体が多いように思います。
 次は♀。
Pieris属napi群2種第1化の産卵(4月中旬)_f0090680_21444112.jpg


 識別形質は♂と同じ。スジグロ♀は♂以上に中室の暗化が著しく、2本の黒条:#2、#3がくっきりと確認できる個体が多いですね。ヤマトの肩脈形状は♂よりは明確に出現しますが、スジグロ♀に比較して太い傾向にあるようです。
 今回は裏面にのみ着目しましたが、両者の同定はもちろん表翅の特徴も把握した上で総合勘案して実施せねばなりません。また、今回観察したポイントに飛んでいるシロチョウ類を観察した結果、面白いことに気が付きました。つまり、
「ヤマトはスジグロよりもサイズが小さい」
事実です。これは♂♀問わず、傾向があったように思います。この日、確認できたシロチョウ類をサイズ順に並べると次のようになります。
スジグロシロチョウ>ヤマトスジグロシロチョウ=モンキチョウ♀>ツマキチョウ
慣れてくると遠目からサイズを確認して「ヤマトだ!」と判断できました。本来、ヤマトとスジグロの混棲ポイントでは、時間的棲み分けがなされていて、ヤマトがより早く出現し、遅れてスジグロが発生するとされています。しかし、4月中旬は微妙な時期で、明らかに両者が混飛しているので、napi群の同定は益々難易度が増すように思います。
 とにかく、今回思いもかけず、ヤマトスジグロの産卵シーンを初めて撮影でき、本当に嬉しかったのでした。残念ながら、ヤマトの飼育をする時間的余裕がありませんでしたので、近い将来、できればスジグロとの幼生期比較もしてみたいと思っております。
by fanseab | 2015-05-05 22:37 | | Comments(2)
Commented by twoguitar at 2015-05-07 17:02 x
スジグロ/ヤマトの識別ポイントの提示、興味深いですね。
よくわからないのでスジグロでまとめていましたが、
時間があるときに過去の写真を拾い集めて比較してみたい・・・
サイズにも差があるんですね。


Commented by fanseab at 2015-05-07 22:03 x
twoguitarさん、本来、表翅が綺麗に観察できれば表翅側の斑紋の出方がヒントになることが多いのです。裏面側は相当微妙な個体が多く、今回は典型的な事例で紹介しました。サイズも含め、総合的に判断させばならないので、苦労します。ここでは記述しませんでしたが、飛翔行動にもかなり差異があります。
名前
URL
削除用パスワード