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探蝶逍遥記

ボルネオ・グヌンムル公園遠征記(10)シジミチョウ科その4:シジミチョウ亜科②

 ムラサキシジミのグループ(Arhopala属)はボルネオで90種を超える大群にも拘らず、これまでボルネオ遠征では未撮影。今回ようやく梢の上の個体を発見したものの、距離が遠くて種同定可能な絵は撮れませんでした。

++横位置画像はクリックで拡大されます++
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D7K-34(トリミング)、ISO=200、F7.1-1/640、-1.0EV、撮影年月日・時刻:2012年3月10日、12時06分

 ピクセル等倍画像でかろうじて後翅基部側の斑紋が識別できる程度。しかも右後翅も大破していて、Arhopala sp.の表現に留めるしかありません。午前・午後のどのような時間帯に下草に降りるのか? 習性を把握しないと接近戦での撮影は難しいのでしょうね。遊歩道の脇の大きな葉を何気なく見ていると、なにやら食痕が見えます。何だろうと思って裏返すとビックリ! シジミの幼虫らしき姿が。
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D7K-34、ISO=640、F13-1/250、-0.3EV、外部ストロボ、撮影年月日・時刻:2012年3月12日、10時11分

 蟻も沢山随伴しております。85mmマクロでも撮影。
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D90-85VR(トリミング)、ISO=200、F13-1/200、-0.7EV、外部ストロボ+スレーブ1灯、撮影年月日・時刻:2012年3月12日、10時14分

 姿・形、それに蟻を伴う状況からひょっとしてArhopala属の幼虫かな?と思い、帰国してから調査してみました。すると、アゲハチョウ科でご紹介したChilasa属幼虫の同定でお世話になった京大准教授の市岡先生が共著論文で、管理人の撮影した幼虫と類似した画像を掲載しておりました。折角ですので、厚かましくも先生に再度本幼虫の同定依頼をお願いしましたところ、先生より次の通り、丁寧なご回答を頂きました。

①幼虫は恐らく、A. amphimutaと思われる。
②食草はオオバギ属(Macaranga)で、M. bancana, trachyphylla, havilandiiのいずれかだと思われる。

 市岡先生には改めて厚く御礼申し上げます。さて、上記論文でも触れられている通り、amphimutaサブグループ(※)に属するArhopala属4種(amphimuta, zylda, dajagaka, major)はいずれもトウダイグサ科オオバギ属を食し、4種各々が好む寄主植物種はそれぞれ異なるとされています。

※蝶研究界の碩学、Eliotは大群のArhopala属を細分化し、普通種のA.amphimutaを代表種とするサブグループを設定。ボルネオには16種産するとされている。

 また、Arhopala属幼虫はシリアゲアリ(Crematogaste属)類と共生関係にあり、シリアゲアリはオオバギ属の茎内に巣を造り、巣内に棲むカイガラムシ類とも共生関係にあります。本来、シリアゲアリはオオバギに付く害虫や外敵から防衛する役割を帯びていますが、ここに上手く居候して、堂々とオオバギの葉を食しているのが、Arhopala属の幼虫なのです。本来なら、シリアゲアリはArhopala属幼虫を撃退する立場にあるのですが、同幼虫の蜜腺から出る蜜欲しさに幼虫を攻撃することはないのです。蟻を巡る生物群というのは実に深淵な世界を築いていると思います。このテーマは最近出版された丸山宗利氏の著作、「アリの巣をめぐる冒険 未踏の調査地は足下にに詳しく紹介されています。この本は大変面白いので是非ご一読をお勧めします。

 最後にご紹介するのは、バナナの葉上に登場した茶色の大型シジミ。遊歩道から接近できない位置に歯ぎしりしながら300mmで撮影。管理人初物のナラダコノハシジミ(Amblypodia narada salvia)でした。
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D7K-34(トリミング)、ISO=400、F6.3-1/800、-0.7EV、撮影年月日・時刻:2012年3月10日、12時42分

 本属のシジミとしては南ベトナムでアニタコノハシジミ(A. anita anita)に出会っており、今回で2種類目。anitaは現地で数多くみかけましたが、naradaは↑の画像を撮ったきり姿を現しませんでした。これでシジミチョウ科はおしまいです。最後に現地で観察・撮影できたシジミチョウ科全13種(含む幼虫)を改めてご紹介しておきましょう。

<シジミチョウ科目撃・撮影種リスト(黄色字は目撃種)>
(1) スブストリゴススエビアシシジミ(Allotinus substirigosus substrigosus) ♀
(2) ムラサキサカハチシジミ(Discolampa ethion icenus)♂
(3) エルナシロサカハチシジミ(Caleta elna elvira)
(4) リュウキュウウラボシシジミ(Pithecops corvus)
(5) ゼブラルリウラナミシジミ(Jamides zebra zebra)♂♀
(6) ルリウラナミシジミ(Jamides bochus nabonnassar)♂
(7) ルリウラナミシジミの一種(Jamides sp.)♂
(8) オナシウラナミシジミ(Anthene emolus goberus)♂
(9) ムラサキシジミの1種(Arhopala sp.)
(10) ムラサキシジミの1種の幼虫(A.amphimuta ?)
(11) ナラダコノハシジミ(Amblypodia narada salvia)
(12) フシギノモリノオナガシジミの1種(Drupadia sp.)
(13) タガリカウラギンシジミ(Curetis tagalica jopa)♂
次回はシジミタテハ科(ここでは便宜上シジミチョウ科の1亜科ではなく独立科として扱う)のご紹介です。
<次回に続く>
by fanseab | 2013-01-23 21:26 | | Comments(2)
Commented by naoggio at 2013-01-26 11:54 x
以前バリ島に行った時、ムラサキシジミのグループは普通には見かけませんでしたが、梢をビーティングしてみるとムラサキツバメの仲間がパラパラと飛び出したのを思い出しました。
普段は梢にいるので撮影はなかなか難しいのでしょうね。
それにしてもあっさり幼虫を見つけてしまうとはさすがですね。
ナラダコノハシジミ、歯ぎしりしながらのお気持ち良くわかります。なかなか魅力的な形をしたシジミですね。
Commented by fanseab at 2013-01-26 21:22 x
naoggioさん、ビーティングで梢を探索されたのですか?小生、手荷物検査の問題が常に引っかかってこれまで海外へは長竿を持参しておりません。確かにArhopalaは樹上生活者ですから、下草に降りるチャンスがいつなのか讀めずに苦労しております。
幼虫は、天候が悪くて成虫観察ができない時に下草ばかり見ておりましたので、発見できました。悪天候が幸いしたと言うべきでしょう。
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