ウラギンシジミの記事が続いたので、管理人の頭の整理を兼ねて、ウラギンシジミ Curetis 属のタクサ(分類群)についてまとめておきたいと思います。
ネットで調べてみたところ、最新DNA解析に基づくタクサのレビューはありませんでした。現時点での最新のレビューは、どうやら英国の碩学・Eliot氏が1990年に発表した報文(※)。最新と言っても、既に36年前。この間、ウラギンの系統研究は殆ど進歩していないことになるのかな? 今回はEliotの報文に従い、その要旨をまとめてみます。
同氏によれば、本属は3群に大別され、合計18種としました。
1)thetis 群:合計7種
thetis,saronis,nesophila,venata,barsine,tagalica,regula
2)bulis 群:合計9種
sperthis,siva,felderi,santana,tonkina,bulis,acuta,naga,brunnea
3)insularis 群:合計2種
insularis,freda
赤太字で強調したのは、管理人がこれまで撮影経験のある種。但し同定が難しい種群ですから、同定が正しいと仮定しての話です。我が国に生息する唯一の種acuta はbulis 群の一員。
同定を難しくしている事情をまとめます。本属はいずれも裏面が銀白色で、斑紋らしきものが少ないのが難点。翅表に関して言えば、♂は例外なく濃橙色か赤色で外縁側に黒褐色の縁取りを持ち、赤色部分の種による特徴差に乏しい。更に♀に関してもウラギンシジミC.acuta のように白色になるタイプはともかく、thetis 群では♀も♂同様に表翅地色が橙色を呈すので、翅表色彩による♂♀区別が困難になる場合もある。他方、翅型については季節型が認められ、乾季型(低温型)では前翅頂や後翅肛角が尖り、雨季型(高温型)では全体に丸みを帯びる傾向があります。ネット上に掲載された標本や生態写真についても、採集・撮影月日が記載されていない場合は誤同定に注意。結局のところ、交尾期検証しないと同定が厳しい種が多い。
こんな背景を含めて、Eliotは上記3群に関する識別点を裏面形質に絞って下記のようにまとめています。下図もご覧下さい。

1)thetis 群およびinsularis 群
微細な黒点が散布されない。かつ、前翅裏面の中室外側の条線は外縁にほぼ平行。
2)bulis 群
裏面全体に微細な黒点が散布される。かつ、前翅裏面の中室外側の条線は外縁とは平行でなく、翅頂部に向かう(延長線上で交差)。
凄く分かりやすい説明ですね。上図はかなり識別点を強調して描いているので、実際の個体を見た場合、それほど簡単に識別できないケースも多々あると思います。そこで、管理人がこれまで撮影した種を用いて、実例をご紹介していきたいと思います。次回以降の記事にご期待下さい。
※ J.N.Eliot, 1990. Notes on the genus Curetis HÜBNER(Lepidoptera,Lycaenidae) .蝶と蛾41(4):201-225.
18日配信の記事でご紹介したウラギンシジミ越冬個体の続報です。その後無事でしたが、ある日、そばを通りかかると、白い姿が消えていました。消失前後の比較画像です。
+++画像はクリック・タップ等で拡大されます(モニター環境に依存)+++

左側画像のように、それまでは遠目にも白く光るウラギンが目立っていました。それが、突然消えたのです。右側画像で矢印#1が、ウラギン越冬を確認した葉の位置。そのすぐ下、矢印#2の葉上にウラギンが移動していました。近づいてみると、葉上に横たわっていました。

EM12-Z60(トリミング)、ISO=400、F6.3-1/125、外部ストロボ、撮影時刻:10時44分
突っついても反応が無く、予想通り、お★様になっていました。翅に明らかなバードビークが見られないので、野鳥の被害ではなさそうですが、死亡原因は不明。このまま放置しておくと、道路上に落ちて車に轢かれたりするので、拙宅にお持ち帰りし標本保管することにしました。翅を開いてみると、♀でした。前脚跗節を確認したいので、脚部を深度合成で拡大撮影していました。

EM12-Z60(13コマ深度合成+トリミング)、ISO=100、F5.6-1/50、外部ストロボ
前脚(矢印#f)、中脚(同m)、後脚(同h)全てにピントが来るように撮影してみました。前脚跗節はきちんと5分割されており、先端は鉤爪が確認できます。ここら辺の特徴はヒメシジミ亜科(例えばヤマトシジミ)の♀と同じです。ヒメシジミ亜科の♂跗節は3分割程度で、先端には鉤爪が無く、針のように尖っています。ウラギンシジミ亜科♂もヒメシジミ亜科と同じなのかは今後要確認ですね。
越冬中のウラギンは18日記事の画像からもわかるように、中・後脚の4本で葉裏にぶら下がっています。これら4本の脚先端鉤爪は、前脚とは比較にならない位、大きいですね。このがっしりとした鉤爪を葉裏に食い込ませ、長期間の安定的越冬を実現しているのでしょう。仮にウラギンがニャンコほどの大きさだとして、この鉤爪で手を引っ掻かれたりしたら、皮膚に凄い傷跡が残るのでしょうね。
それにしても、春先まで継続観察の楽しみが突然奪われて、ちょっとガックリでした。もちろん一番ガックリ来たのは、今春行うべき産卵行動ミッションをコンプリートできなかった母蝶でしょう。無念至極だったと思います。合掌・・。
ウラギン越冬個体の画像をアップしたついでに、本種の個体数推移についての話です。スバリ、ここ2年で個体数が急に減った感じがします。6,7年前頃は、毎年9月頃、多摩川河川敷のクズ群落で待機していると、ウラギン♀の産卵シーンをよく見かけました。
+++画像はクリック・タップ等で拡大されます(モニター環境に依存)+++

EM12-P200-X1.4TC(トリミング)、ISO=400、F7.1-1/250、外部ストロボ、撮影時刻:15時35分(2020年9月15日)
感覚的に「減った」ことを定量的に確認するため、トランセクト調査結果からデータをまとめてみました。

同調査は2022年3月からスタートしています。ご覧の通り、同年9月頃は最大18頭も観察されています。その後、2023年から昨年にかけて観察個体数が激減し、昨年9-10月はとうとう全く観察できなかったのです。この個体数減少は河川敷での観察結果のみならず、冬場に近所の常緑樹で越冬する個体の観察数もやはり減少しています。経験値で言うと、2022年秋の個体数は異常に多く、平均的には5-6頭だったでしょう。元々ウラギンは個体数がそれほど多いシジミではあありません。
個体数減少の理由は現時点で不明です。食草のクズは河川敷に腐るほど生えています。それでもウラギンが飛ばないのは何故か?今のところ適当な仮説も立ちません。ただ、地道なトランセクト調査を4年間実施したおかげで、今までボンヤリと考えていた蝶の動向が定量的に見えてきたことは素晴らしいと思います。蝶の発生には個体数を周期的に増加・減少を繰り返すパターンもあります。恐らく今後10年位調査を続ければ、ウラギンの個体数消長に関して、何らかの仮説が立てられると期待しております。

