探蝶逍遥記

広島・賀茂台地遠征(3) 台地を飛ぶ初夏の蝶

 新幹線の三原駅を下り、車を北に走らせると、いきなりの急登攀に驚かされます。一気に坂を上り詰めると、急に視界が開けてきます。ここが世羅・賀茂台地です。標高は概ね300m。緩やかな丘陵沿いに田畑が広がる見事な里山環境が保たれています。伸びやかな景色に心が放たれる・・・そんな素晴らしい環境が目の前に広がります。
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D70S-10.5-X1.4TC, ISO=200、F11-1/125

 世羅町のホテルで夜、部屋の窓を放つと冷気が心地よく、冷涼な信州の高原を思わせます。関東出身の小生にとって、広島県と言えば、瀬戸内海に面した暑いイメージがありましたが、このような高原があるとは意外でした。

 遠征初日は休耕田の様子を下見しながら、蝶を探索です。コナラやクヌギを叩くとアカシジミやミズイロオナガシジミが飛び出します。既に気温が高いので殆どの個体が梢の上に飛んでいくなか、唯一1頭のアカシジミ♀が下草に降りてモデルになってくれました。アカシジミの尾状突起ってこんなに長かったかな?
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D70, ISO=500、F5.6-1/800、+0.3EV

 暫く観察していると、翅をスリスリしながら、微妙に開いてくれました。このシジミ精一杯のご開帳サービスなのでしょう。
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D70, ISO=500、F10-1/160、+0.3EV

 雑木林にはクヌギ・コナラに混じってナラガシワも生えていました。もちろん、ヒロオビかウラジロが飛び出すことを期待して長竿で叩き出しを試みましたが坊主。丹念に探せば、いるのかもしれません。  
 一方、田んぼの畦道沿いには大型ヒョウモン類が目立ちます。農機具を収納する小屋の周りを緩やかに飛ぶヒョウモンに目を付けると羽化したてのミドリヒョウモンの♂でした。小屋の柱から吸水する等、傍目にはサトキマダラヒカゲと全く同じ挙動です。そのうち、葉上に止まってモデルになってくれました。
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D70S-VR84@400mm, ISO=500、F10-1/320

 ミドリヒョウモンより小ぶりなヒョウモンも飛んでいて、チェックするとウラギンの♂。本種については、小生、これまで1000mを越える高原での撮影のみで、低山地産(標高~300m)は初体験。しきりに吸水しておりました。
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D70S-VR84@400mm, ISO=500、F13-1/400、-0.3EV

 ミドリ、ウラギン以外にもメスグロ♂が飛んでいました。ヒョウモン類がこれだけ多く飛んでいる里山環境は彼らの食草であるスミレが潤沢にあり、アザミ類を中心とした吸蜜源も豊富にあるためでしょう。この台地を車で走らせながら、地形を眺めてみると、緩やかな丘陵の狭間に棚田や休耕田が形成されています。傾斜がゆるやかなため、水が淀みやすく、湿地形成に有利に働くのでしょう。恐らくヒョウモンモドキが好む生息環境が理想的に保たれているのが、この世羅・賀茂台地の地形なのでしょう。本来、MelitaeaMelicta属の故郷、ユーラシア大陸の草原は朝晩冷え込むような環境のはずで、ここ賀茂台地は、気候の面でも理想的なのかもしれません。

 ヒョウモンモドキはもちろん、低山地性ゼフやヒョウモン類が多産する里山環境はそうそうどこにでもあるわけではありません。爽やかな台地をドライブしながら、いつまでもこの環境を残してほしいと思いました。(了)
# by fanseab | 2006-06-22 23:04 | | Comments(6)

広島・賀茂台地遠征(2) ヒョウモンモドキ観察会(6/17)

 いよいよ待ちに待った観察会。と言っても前日に結構成果が出ていたので余裕での参加です。朝9時、役場の前に集合すると25名ほどの面々が期待感に胸を膨らませています。観察にあたっての注意事項を聞いた後、車に分乗し出発。前日小生が観察したポイントとは別の場所に案内して頂きました。同じ休耕田と言っても環境は様々です。残念なことに到着と同時に小雨模様。地権者の方直々の案内で歩き始めると、いきなり交尾個体が出現。「おおっ」とどよめきが起きると同時にカメラマンが殺到します。交尾している場所は足を踏み入れられないので、400mmズームでのショット。上♀下♂で共に新鮮な個体です。
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D70S-VR84@400mm, ISO=640、F10-1/320、-0.7EV

 交尾ペアに向けて、一斉に10台以上のカメラのシャッター音が休耕田に響き渡ります。まるでモデルの撮影会の雰囲気。「見世物じゃないんだから、静かにさせてよ~・・」とペアから叫び声が聞こえそうなシーンでした(^^)

 小雨交じりで飛翔する個体もなし。時たま飛んでいる大型のヒョウモンは新鮮なウラギン♂。「あれは別のヒョウモンチョウです」と保護会のメンバーがフォローしてくれます。徐々に雨脚が強くなる中、「皆さん、蛹があります」と紹介してくれました。全体が褐色に色づき、残念ながら寄生個体のようでした(正常個体の地色は淡白色とのこと)。
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D70, ISO=500、F7.1-1/400

 この後、更に雨脚が強くなり、昼前に観察会は終了です。本日だけ参加された方は天気を恨んでいたことでしょう。昼食後、「保護の会」のお心遣いで有志を募り、別のポイントに案内して頂く。休耕田最深部のポイントは開放感があって素晴らしい湿地。ほどなくノアザミで休む♂を見出しました。雨の中、草陰ではなく、濡れやすい花弁の上で休息しているのにはビックリです。
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D70S-10.5-X1.4TC, ISO=500、F4-1/1000

 同じように♀も所在無く、ノアザミの上で休んでいます。今度は横位置広角での作画。
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D70S-10.5-X1.4TC(トリミング), ISO=500、F11-1/50、-0.7EV

 昨日とは異なり、小雨模様の天気なので、画像はシットリ感が出て発色は良好です。ピーカン時とはまた異なる表情を見せてくれたように思います。まあ梅雨空に発生するタテハですから、今日のような天候が似つかわしいのかもしれません。♂♀共にじっとしているだけの変り映えしない画像のオンパレードになってしまうので、趣向を変えて、90mmマクロで真正面から♀を撮影。ちょっぴりストローを緩めて、超リラックスムードの表情。本質的にやさしい顔ですね。
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D70, ISO=500、F3.5-1/400

 午後3時。劇的な天候の回復が望めないと判断し、撤収です。最後まで我々撮影者に便宜を図って頂いたSさん、Iさん始め「保護の会」の関係者・地元の方、本当にお世話になりました。お蔭様でタップリと貴重種の生態を楽しむことができました。

 次回はヒョウモンモドキ以外の蝶を簡単にご紹介したいと思います。
# by fanseab | 2006-06-20 00:07 | | Comments(8)

広島・賀茂台地遠征(1) ヒョウモンモドキとの出会い(6/16)

 関西に拠点を移してから是非撮影したかったターゲットがヒョウモンモドキでした。この度、ヒョウモンモドキ保護の会の活動の一環として開催された観察会に参加し、本種を含め賀茂(世羅・賀茂)台地の蝶を堪能してきましたので、3回に分けて、その魅力をご紹介したいと思います。

 ご承知の通り、ヒョウモンモドキは環境省が規定したレッドカードリストで最も絶滅の危機に瀕している「絶滅危惧Ⅰ類」扱いで、上記保護の会を中心とした地元の方の献身的な保護活動でやっと生き延びている貴重種です。観察会は6/17-18の両日の予定でしたが、6/16(金)に思い切って年休を取り、2日間かけて勝負しようとの作戦です。

 と言っても、初日はポイントを正確に把握しているわけでもないので、下見のつもりで休耕田の様子を探索です。午後になって、何気なく入った休耕田に「ヒョウモンモドキ保護地区」の看板が。そこでは明日以降の観察会に備えて地元の方が歩道周辺の潅木や下草刈りに汗を流されていました。声かけして、撮影の許可をもらい、畦道からの観察です。かなり蒸し暑い薄曇のなか、1頭が飛び始めました。大型ヒョウモンとは異なるエレガントな姿。もう少し弱弱しい飛翔を想像していましたが、意外と敏捷で、昨年、但馬の高原で観察したウスイロヒョウモンモドキに比較すればはるかに活発な印象を受けました。確認するとどうやら♀。少しスレていますが初めて出会った個体です。なんとか綺麗に写してあげなくては。暫く観察しているうちに雲が切れて快晴状態に。そこで、fisheye縦位置広角で太陽の輝きを画面に入れた作画にしてみました。
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D70S-10.5-X1.4TC, ISO=400、F20-1/200、+0.3EV、内蔵ストロボ

 陽射しが強くなってきたので、ノアザミに来る吸蜜個体も増えました。先ずは新鮮な♂を逆光で撮ったシーン。
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D70, ISO=500、F10-1/160、+0.3EV

 引き続いて開翅吸蜜シーン。♂は後翅外縁側の斑紋が♀に比べて発達せず、明るい印象です。ちょっぴりスレた個体で残念でした。
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D70, ISO=500、F13-1/250

 新鮮な♀を期待して、ふと足元を見るとパタパタと一際色濃い個体が羽ばたき練習状態。羽化したばかりの個体でした。翅を拡げての日光浴シーン。レンズを通して見る複雑な斑紋に暫し見入ってしまいました。特にこの個体は黒班の発達が著しいようで、飛翔時もオレンジ色というよりは、濃褐色のイメージでした。
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D70, ISO=640、F13-1/320

 保護地区では撮影のため、湿地の中に踏み入れるのはご法度とされています。撮影アングルに苦労する中、↑と同じ個体を畦道脇からギリギリ狙える位置からfisheye横位置で開翅シーンを撮影。このレンズの接近限界近く目一杯寄ったので、生息環境を狙い通りに写しこめました。午後3時を過ぎた斜光線がヒョウモンモドキの表情をより美しく演出してくれたようです。
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D70S-10.5, ISO=500、F14-1/200

 撮影の途中で保護の会、事務局長のSさんやIさんらが成虫の活動調査に来られたので、ご挨拶。調査の苦労話等をお伺いする。このポイントではアサギマダラのようにマーキングされた個体を見かけましたが、個体識別をしながら蝶の行動半径等を調査されているとのこと。本当に地道な行動調査活動です。Sさん、Iさん、貴重なお話、撮影へのご配慮、有難うございました。
 事務局の方が引き上げるのを潮時に、小生も本日の撮影はこれにて終了。明日(6/17)はいよいよ観察会です。

【本種の撮影を予定されている方へのご注意】
 ヒョウモンモドキの生息地は当然採集禁止ですが、撮影行為にも格段の注意が必要です。以下に留意すべきでしょう。
①休耕田と言え、ポイントは私有地故、無断での立ち入りは厳禁。必ず地権者の了解が必要。
②また、狭い農道に車を横付けして農作業に支障をきたすことのなきよう、駐車場所にも留意。農作業をされている方への声かけ等のコミュニケーションを取りましょう。
③畦道から外れて湿地内への立ち入りも厳禁。食草のキセルアザミ類は保護活動の一環で移植や増殖等、格段の努力が払われています。食草を踏みつけて、幼虫や蛹にダメージを与えたら自殺行為になります。
 厳しい書き方をしましたが、末永く本種を撮り続けていきたいのは小生も同じ。撮影者としてモラルを守って写したいものです。
# by fanseab | 2006-06-18 09:37 | | Comments(12)