探蝶逍遥記

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祝:「フィールドガイド日本のチョウ」刊行(4月24日)

 拙ブログでも何回かご紹介してきた首題図鑑がいよいよ完成し、24日から販売されております。                                             ++横位置画像はクリックで拡大されます++
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 この図鑑では管理人を含めアマチュアカメラマン約90名の方が合計1000枚超の画像を提供し、日本チョウ類保全協会の全精力を傾注して出来上がった力作でございます。
さて、世間には「フィールドガイド」と称するハンドブックがゴマンとありますが、初心者から上級者まで含めて使い勝手の良い本はなかなかないものです。管理人の贔屓目コメントではなく、このガイドブックはユーザー(採集者ではなく、撮影・観察者)の使い勝手を第一に考えて作られた点に注目したいと思います。

 少し、具体的に述べましょう。標本をモデルに記載する従来型図鑑にはフィールドでの種同定に関して限界がありました。現在手軽に入手可能な蝶類図鑑として、GK社刊行の「日本産蝶類標準図鑑」を挙げることができます。例としてヒメジャノメの解説ページ(p.258)を見てみましょう。ここで♂♀性差区別点として、下記のような記述があります。

「♂は後翅表面前縁に近く第7室基部に毛束をそなえ、・・・」。確かに前翅後縁部を水平にまで持ち上げた標本画像では、指摘されている「毛束」が後翅にはっきり確認でき、「なるほどなぁ~」と納得する訳ですが、実際のフィールドで観察される♂の開翅シーンでは、標本に図示されるほど前翅を持ち上げることはなく、この図鑑で指摘している「毛束」は前翅に隠れて確認できず、フィールドで実際に役立つ♂♀識別点としては活用できないのです。

 一方、本ガイドブックでは「毛束」に代替しうる、識別点が提示されており、その識別点が生態画像中に初心者にも分かりやすく矢印で明示されているのです。

 それじゃあ、その分かりやすい識別点とは?・・・、それは読者の皆さん、本ガイドを購入してご確認下さい。これまで、フィールドで撮影した生態画像から種の♂♀判定・種同定する際、撮影者独自の経験から編み出した判定・同定法があったはずです。管理人もそれなりのオリジナル識別点を持っていると自負しておりましたが、このガイドブックを拝見して「なるほど、こんな識別法もあったのか!」と目から鱗の記述がてんこ盛りなのです。

 噂によると、本書の売れ行きは想定以上に好調とのことで、書店では売り切れ続出、品切れの様相を呈していると聞いております。もちろん、図鑑・フィールドガイドブックとして破格な1890円(税込)の価格設定、そしてコストパフォーマンスが評価されたのでしょう。仮に消費税が増税されたらこの値段では買えませんよ!(笑)              
さぁ、皆さん、一刻も早く書店、もしくはネット通販より入手してくださいね。

 さて、本書販売開始後の28日にはガイドブックの完成を記念して、関係者を含めたパーティが品川で開催されました。今回はご来賓として本フィールドガイドを「デジタル昆虫記」上でいち早く宣伝して頂いているプロの昆虫写真家・海野和男氏、また人気ブログ「メレンゲが腐るほど恋したい」の管理人、メレ山メレ子氏ご両名の列席を頂き、盛大に行われました
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 もちろんお酒が皆さん入っておりますので、図鑑を作成する上での苦労話、歯に衣を着せぬ辛辣なトークも入って、大いに盛り上がり、撮影者同士はもちろん、執筆者・編集者間の懇親も深めることができました。また、来賓のご両名も二次会にまで参加され、アマ・プロの垣根を越えて交流を深めることができました。特に海野先生からはアマチュア写真撮影者・協会・保全活動に対して、大変暖かい励ましのコメントを頂き、関係者一同、感謝感激したのでした。海野先生、メレ山メレ子さん、そしてパーティ出席者全員の皆様、お疲れ様でした。
by fanseab | 2012-04-29 20:43 | 書籍 | Comments(10)

翳りゆく楽園(2月23日)

 拙ブログでは初めての書籍紹介です。管理人もネットの時代になって、本を読む時間がめっきり減りましたが、時々思い出したように読書をしたくなる時があります。今回ご紹介するのは、今話題の生物多様性を扱った書籍で、原題は、「Out of Eden: An Odyssey of Ecological Invation 」。テーマは、外来種が在来の生態系にどのような影響を与えるのか。米国内の様々な事例を引用して詳細に語られています。

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 管理人が居住する神奈川県内では、人為的に導入されたアカボシゴマダラが外来種としては異常に繁殖し、在来種、ゴマダラチョウとの競合が議論されています。北海道では、オオモンシロチョウ、カラフトセセリが、ちょっと昔には沖縄のバナナセセリ・・・。蝶の世界でも外来種は結構ありますね。

 ただ、この本では残念ながら?蝶の事例は一つも紹介されていません。むしろ、我々の知らない爬虫類や海洋生物における外来種の侵略ストーリーが極めて興味深く語られています。グアム島に侵入したミナミオオガシラヘビがグアム島在来の野鳥をことごとく絶滅に追いやったエピソードでは、このヘビの行動パターンを知るため、夜中に懐中電灯をかざしながらグアムのジャングル内を彷徨い、ヘビに赤い糸をつけての追跡等、昼間に生態を追跡できる蝶とは比較にならない観察の難しさがわかります。

 一方、在来種の生態調査では、ハワイ島・キラウエア火山が作り出した溶岩トンネル内に生息するウンカ類の探索が面白いです。真っ暗闇の世界で地上から延びる在来植物、オヒアの根から吸汁するウンカ類は、求愛行動に♂が腹を振動させて、オヒアの根を共振させ、♀をおびき寄せるのだとか。 
彼らの愛の媒介をするオヒアが外来植物に侵略されて減少することが、ウンカの運命を左右している。。。。生態系とは本当に複雑に絡み合ったジグソーパズルのようなものだと思います。それにしても、真っ暗闇の溶岩トンネル内で、狭いトンネルを潜り抜けるため、体中傷だらけになって、ウンカを調査する研究者の苦労も大変なものだと思いました。

 先日、「チョウ類保全協会の集い」に参加し、「生物多様性の保全」について考える機会がありました。
ただ、この本を読んだ後、特定の蝶を保全することが、果たして生物多様性の保全に繋がるか?少し疑問を持つようになりました。例えば、ギフチョウを保全するため雑木林の下草を刈る作業があります。この時、この下草内に棲む在来の貴重な雑昆虫種が生息しているとしましょう。この昆虫が下草を刈られると、絶滅に追いやられる危機があるとした時、ギフを残すことと、その昆虫を保全することは完璧に矛盾します。『ギフを絶滅に追いやったのも人間のエゴであるならば、ギフを保全するのも人間(蝶屋)のエゴである』。複雑なジグソーパズルは簡単に解けないなぁ~と思っています。普段そんな思考パターンを蝶屋はしませんけど、この本を読んで、チョウの保全を少し広い視野から考えることが重要だなと気づかされました。一読をお勧めする好著です。


「翳りゆく楽園」
アラン・バーディック著、伊東和子訳
ランダムハウス講談社刊、ISBM978-4-270-00532-3
2400円
by fanseab | 2010-02-22 23:21 | 書籍 | Comments(8)