探蝶逍遥記

北ボルネオ・キナバル遠征記:(3)キナバルオナガタイマイ

 一口にGraphium属といっても細分化すると数属に分かれます。このうち、我々日本人にとって最も魅力的なのが、国内には生息していないPathysa亜属(オナガタイマイグループ)でしょう。文字通り尾が長く、優美で、いかにも珍品の香りが漂い、蝶屋を狂わせるのです。さて、ボルネオには固有のPathysa、キナバルオナガタイマイ(G. stratiotes)を産しており、当然、今回遠征の最大のターゲットとしたのです。キナバルミカドを撮影した初日(4/29)、一瞬ですが姿を現しました。最初は「やけに白っぽいツマベニチョウが降りてきたな・・・」との印象でアゲハとは全く想像できませんでした。
その時はキナバルミカドの撮影に集中していたので、この「シロチョウ」は軽くうっちゃっておこう・・・との軽い気持ちで眺めていたのですが、目の前を横切った前翅の斑紋を見た瞬間、「stratiotesだ!」と叫び心臓パクパク状態に。しかしつれなくあっという間に樹間に消えていきました。

 キナバル公園本部に滞在中、天候には泣かされました。朝方は通常曇りか小雨。晴間が覗くのは午前10時~正午までの僅かな時間。キナバル山頂の奇岩群を望めるのは早朝に限定されます。
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D70, ISO=200, F5.6-1/125、+0.7EV、偏光フィルター、撮影時刻:5月2日、6時31分

 そして午後は雨。単なるスコールではなく、断続的に夜半まで降り続き蝶の撮影は不可能状態に。初日にキナバルオナガを目撃したものの、2日目は曇り勝ちで全く姿を現さず、焦燥感が募ります。そして3日目。この日も11時まで粘るも晴れ間は僅かで仕方なく第二ポイントへ移動しました。俄雨のため、そのまま宿舎に引き上げようとすると、ようやく晴間が広がりそうな気配。そこで、再度エビトラップを岩上に置き直して様子を見ることにしました。するとどうでしょう!トラップを撒いて僅か5分もしないうちにキナバルオナガが姿を現しました。彼を驚かさないように木陰に隠れ、様子を伺うと、一昨日に撒いたエビトラップを一瞬味見した後、すぐにそのトラップを離れ、先ほど撒いたばかりの新鮮なトラップから吸汁を始めました。10秒程待機してから最初は保険で400mmズームで遠目から押さえ、その後、90mmマクロで狙いました。慎重に露出条件設定を確認しながら、シャッターを連射。先ずは側面からストロボを当てた画像。
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D70, ISO=400, F5.6-1/160、-0.7EV、内蔵ストロボ、撮影時刻:5月1日、12時10分

 想像した通りの気品あるアゲハです。続いて半開した翅の斜め上からの画像。
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D70, ISO=500, F5.6-1/200、-0.7EV、内蔵ストロボ、撮影時刻:5月1日、12時11分

 白粉を塗ったようなシットリとした純白の表翅。後翅肛角部に配された口紅を連想させる艶かしい紅紋。このアゲハを求めてはるばるボルネオ参りをする蝶屋の気持ちが理解できる素晴らしさです。欲を言えば、もう少し絞り込んで、シャッター速度も速めにしたいとこですが、そこまで瞬時に検討する心の余裕がありませんでした。最後に広角にトライしようとした瞬間、気配を察知したのか、樹上高く舞い上がりジエンド。この間わずか4分間。至福の時間を味わうことができました。

 4-5日目はキナバル公園からポーリン温泉に移動して撮影を続けましたが、移動先で1頭確認しただけで、結局撮影できませんでした。一方、「シロチョウ」と誤認した当初、お気楽に撮影した飛翔画像中に何とか画面端ではあるけれど、ジャスピンに近い絵が切り取れていました。
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D40-1855@18mm, ISO=1600, F11-1/3200、-0.3EV、外部ストロボ、調光補正1/4、撮影時刻:4月29日、11時32分

 この時、連射したコマは僅か7-8コマ。通常の飛翔歩留まりを考えると、画面に入ったのは奇跡的でした。それにしても、この場面では噂のパスト連射機能を持つ、「EX-F1があったらなぁ~」とつくづく思いました。また、90mmマクロで狙う前に400mmズームでも何とか飛翔を捉えていました。
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D70S-VR84@400mm, ISO=500, F6.3-1/500、-1.0EV、内蔵ストロボ、撮影時刻:5月1日、12時08分

 2枚の飛翔画像からこのアゲハの尾状突起の長さがご理解頂けると思います。次回は、いつも撮影に苦労する大型アゲハとの格闘をご紹介しましょう。
by fanseab | 2008-05-24 20:03 | | Comments(20)
Commented by Celastrina at 2008-05-24 22:24 x
なんと・・・今度はキナバルオナガですか・・・・・やるなぁ・・・・・キナバル固有という敷居の高さといい、後翅裏面の黄色味と深紅の後角紋といい、感動的です。
Commented by cactuss at 2008-05-24 23:58
美しいチョウですね。日本にはいない模様の蝶なので、珍しさもあって、あこがれますね。特に深紅の紋と長い尾状突起が全体を引き立てていますね。
Commented by ダンダラ at 2008-05-25 01:01 x
きれいな蝶ですね。
今のところ海外の蝶にはそれほど興味はありませんが、この蝶は良いですね。
こんな所に出かけられるのがうらやましいです。
Commented by banyan10 at 2008-05-25 02:39
目的の蝶が撮影できて良かったですね。おめでとうございます。
日本で見れない独特の美しさですね。
最初の風景も素晴らしいです。
Commented by maeda at 2008-05-25 09:57 x
海外に出るとそこの蝶にはまってしまいます。
最後の海外から既に10年経ちますが、当時の記憶はまだ鮮明です。
東南アジアから遠ざかって久しいのですが、そのうちに復活するかもしれません。
Commented by fanseab at 2008-05-25 12:57 x
Celastrinaさん、地域の固有種と言えども、個体数が多ければ問題ないですが、このアゲハは数が少ないので、ワンチャンスをものにしなければならない難しさがありました。その意味で、大変ラッキーで満足しています。
Commented by fanseab at 2008-05-25 12:59 x
cactussさん、キナバルオナガに近縁のアゲハに比べると、贅肉をそぎ落としたような均整のとれたデザインに痺れます。真紅の紋は独特で、すごく印象に残るのです。
Commented by fanseab at 2008-05-25 13:03 x
ダンダラさん、小生もあまりド派手な種類は好みません。このアゲハは純無垢の白が大変印象的で格調高く感じます。肛角の真紅も、黒条紋もすべて「白」を強調するためにあるのでは?と思っています。
Commented by fanseab at 2008-05-25 13:06 x
BANYANさん、暖かいコメント、有難うございます。
この蝶は絶対落としたい・・・と思っているターゲットに出会った時の
興奮は国内でも海外でも変わりありません。ただ海外では、それこそ、
「一期一会」の感覚で逃がしたらおしまい・・・の緊張感が溜まりません。
早朝に望むキナバルの眺めは一生忘れられません。
Commented by fanseab at 2008-05-25 13:08 x
maedaさん、そうですか、10年経ったのですね。インパクトの強い蝶に出会った記憶は深く心に刻まれて、風化しないものですよね。恐らく
このアゲハを仕留めた記憶も永く残ると思っています。
Commented by furu at 2008-05-25 14:05 x
オナガタイマイの仲間には憧れます。キナバルほど珍しい種でなくても良いので撮ってみたいです。
風景画像にさりげなく偏光フィルターを使っておられるのが、ついでの撮影ではなく本気モードなのが判ります。
Commented by 6422j-nozomu2 at 2008-05-25 20:32
キナバルオナガアゲハ実に優美で素敵な蝶だこと。エビトラップ、凄い臭いだと想像出来ますが、日本のオオイチモンジと言い、集蝶効果が大きいようですね。まだまだ続きそうなので、楽しみにしております。
Commented by kmkurobe at 2008-05-25 20:41
うーんこれはすばらしいですね。本当に尾状突起が長くて美しいアゲハですね。
Commented by fanseab at 2008-05-25 21:01 x
furuさん、オナガタイマイの仲間は昨年、ベトナムで初めて撮影できました。どちらか言えば春先のアゲハで珍品が多いですね。
偏光フィルター、RAW現像のレタッチでもある程度、調子を整えられますが、ここは実験的に使用してみました。
Commented by fanseab at 2008-05-25 21:04 x
ノゾピーさん、「優美」のキーワードがピッタリくる蝶でしょ!このアゲハ、大変グルメ?でして、臭気の弱いエビトラップには見向きもしませんでした。国内蝶の撮影では邪道かもしれないし、トラップは使いたくないですね。
Commented by fanseab at 2008-05-25 21:06 x
kmkurobeさん、尾状突起もさることながら、「白」がこれほど映える蝶もいないと思います。日本には黒系アゲハが沢山いますが、白いアゲハは想像も出来ないわけでして、最初は本当にシロチョウと間違えました。
Commented by thecla at 2008-05-25 22:05 x
尾状突起の長い、白くシロチョウと間違えるようなアゲハ。
頭では理解し、写真を見ても、想像しきりません。一枚目の横からの撮影、裏面と尾の長さもわかってうっとりします。
Commented by fanseab at 2008-05-26 07:17 x
theclaさん、図鑑で見た印象と実物が大きく異なる代表的な種類かもしれません。それがこのアゲハの魅力かもしれませんね。
Commented by 虫林 at 2008-05-26 12:15 x
オナガタイマイはもちろん見たことはありませんが、尾が長く、優美で、いかにも珍品の香りが漂い、風格がありますね。初日に見たあと、3日目にエビトラップに来たのですね。このエビトラップの威力が良く生かされて、さすがfanseabさんですね。東南アジアのチョウをみるには、それなりの工夫が必要なんですね。
こんあチョウが目の前に現れれば、心臓バクバクも理解できますよ~(笑)。でも撮影できたときは嬉しかったでしょうね。
Commented by fanseab at 2008-05-26 20:13 x
虫林さん、このアゲハは日差しがちょっとでも陰ると出現しないので苦労しました。その点はギフチョウと同じパターンですね。撮影できた後の達成感は格別でした。
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