探蝶逍遥記

南ベトナム遠征記 (3)アゲハチョウ達

 今回はアオスジアゲハの仲間(広義のGraphium属)を中心に魅力的なアゲハ類をご紹介しましょう。小生、これまでの東南アジア遠征は主として乾季に実施しております。その理由はサラリーマンにとって限られた年休を有効に使うべく、現地までのアクセス時間が確実に計算できる点が挙げられます。雨季には河川の氾濫やら4WD車でも林道でスタックする等のリスクが増加するからです。一方、乾季にはアゲハチョウやシロチョウが大集団で吸水することがよく知られています。小生が海外遠征を夢見たのは、実はこの吸水集団を観察したい一念にあったと言っても過言ではありません。「花吹雪のように舞う蝶に包まれたい・・・」これを夢見て遠征したものの、これまで夢のシーンに出会うことはできませんでした。

 ところがです。今回、思わぬ形でそれが実現したのです。ゲストハウスの近くに国立公園で勤務するレンジャー達の宿舎があり、彼らが野菜類を自給自足するための小さな畑が脇にありました。滞在2日目の午前中、何気なくこの畑を覗くと、ミカドアゲハ(Graphium doson)を中心にしたアゲハの吸水集団が形成されていたのです!
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D70, ISO=500, F7.1-1/640

 恐らくアゲハ達を引き寄せる肥料が畑に播かれていたのでしょう。画面上ではミカドアゲハ(番号①)が13頭、アリステウスオナガタイマイ(同②:G.aristeus)6頭、マカレウスタイマイ(同③:G.macareus)3頭、合計22頭が観察できます。これだけの個体数がまとまった集団を観察するのは初体験だったので、どの個体にピントを合わすべきか?迷ってしまいました(^^;; また、北タイで経験したようにカメラを無理に接近させると、すぐに集団がバラけてしまいました。

 それでは、個々のアゲハを詳しく見ていきましょう。先ずは最も数の多いミカドアゲハ。恥ずかしながら小生、国内外含め、本種を撮影するのは、これが初。ブログ仲間のyさんが最近、国内産ミカドをアップされていますが、斑紋がほぼ白色に近い国内本土産亜種(ssp. albidum)に比較して、当地ベトナム産(原名亜種:ssp. doson)はアオスジ同様に鮮やかなブルーで、かなり印象は異なります。
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D70S-VR84@400mm, ISO=500, F9-1/160、+0.3EV

 お次はアリステウスオナガタイマイ。
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D70, ISO=500, F6.3-1/2500、-0.3EV

 尾状突起が異常に長いアオスジアゲハの仲間は、春先中心に出現する小生が憧れていた種群です。背景に散水用の青いホースが入ったのはご愛嬌です(^^;;

 吸水集団から離れて単独で吸水にやってきたのは、オナガタイマイ(G. antipathes)。
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D70S-VR84@400mm, ISO=500, F5.6-1/1600、-0.3EV

 こいつはボルネオ&北タイで撮り逃がしていただけに撮影できて素直に嬉しかった! ご覧のようにベージュを基調に緑と黒褐色の帯状紋を配した大変お洒落なアゲハです。普通種と言えますが、個体数は少ない印象で、発生末期なのか、スレ気味だったのは残念でした。

 尾状突起を欠く仲間の代表例がマカレウスタイマイ。朝方、活動が活発になる前に葉上で開翅休息する個体です。
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D70, ISO=400, F3.5-1/1000

 洞察力のある読者の皆さんは、本種がマダラチョウに擬態していることを見抜かれたかもしれません。擬態のモデルになっているのは恐らく↓に示すヒメアサギマダラ(Parantica aglea)だと思います。
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D70S-VR84@400mm, ISO=500, F9-1/100

 このアゲハ、滑空飛翔が得意でないので、マダラチョウとの見分けは比較的楽で、そう簡単に騙されることはありませんでした。

 一方、抜群の飛翔力を誇るのがコモンタイマイ(G. agamemnon)。このアゲハが海老等の甲殻類トラップを好む事実は2年前、シンガポールの蝶屋さんから教えてもらいました。ゲストハウス近くの林縁に腐敗した海老を置くと果たして、本種がやってきました。食事前の読者の方、画像をご覧にならないよう、ご注意くださいネ(笑)
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D70, ISO=500, F10-1/100、+0.7EV

 蝿がたかってウジムシが沸いている異臭プンプンのトラップに頭部を突っ込んで必死に吸汁するこのアゲハ、裏面はあまりパッとしない斑紋です。ところが、一旦飛び立つと、鮮やかなグリーンの小紋が浮かび上がり、ハットする美しさです。
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D70, ISO=640, F3.2-1/1600、+0.7EV

 この蝶の名誉のために、もう少し綺麗な背景での飛翔シーンをご覧に入れましょう。別のポイントで、林道に置いたトラップ上で2頭が絡んだシーン。躍動感溢れるお気に入りの絵になりました(^^)
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D70S-10.5-X1.4TC, ISO=500, F8-1/1250、外部ストロボ、調光補正1/4

 今回はルリモン等のアキリデスや一番期待したキシタアゲハ(Troides属)は残念ながら1頭も発見できず、正直ガッカリしました。ベニモンアゲハは飛んでいたので、少なくともキシタ類の食草である、ウマノスズクサ類は公園内に生えているはずです。キシタは何故いないのだろう?と首をかしげてしまいました。で、唯一Papilio属で元気に飛んでいたのはタイワンモンキアゲハ(別名シロオビモンキアゲハ:P. nephelus)でした。
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D70S-VR84@400mm, ISO=500, F10-1/500、+0.3EV、内蔵ストロボ

 一見すると、モンキアゲハ。でもよく見ると後翅白斑の数が多く、後翅裏面外縁側弦月班が黄~白色を呈す特徴があります。この吸水シーンは公園内を流れる大河、ドンナイ川の畔で撮影しています。川の畔で吸水集団が形成されることを期待して、日本から持参した「ある秘薬?」を川岸に散布しておいたのですが、やってきたのが、↑のボロ個体のタイワンモンキ1頭のみで、いささか期待外れに終わったのでした。

 次回はシロチョウ類にスポットを当てたいと思います。お楽しみに。
by fanseab | 2007-05-15 22:54 | | Comments(22)
Commented by kenken at 2007-05-16 06:58 x
オナガタイマイって、他の同属種とはちょっと違った色合いですね。面白い。
コモンタイマイの飛翔を撮ろうという発想がわくのは、やはりそちらならではの個体数だからでしょう。エビトラップも写真からは臭いが伝わらないので大丈夫です。(笑)
Graphium天国、万歳!
Commented by ダンダラ at 2007-05-16 09:41 x
見事な集団吸水ですね。
集団吸水にはせいぜいミヤマシロチョウ位しかお目にかかったことがなくて、いつかはそんなシーンに遭遇してみたいものだと思っています。
コモンタイマイの飛翔シーンはピントもばっちりですごいですね。
Commented by nomusan at 2007-05-16 12:44 x
う~む、やっぱり南の蝶は脳みそがとろけそうなやつが多いですね。大好きです(笑)。やっぱりミカドは別物に思えますね。オナガタイマイも綺麗だぁ~。
Commented by kmkurobe at 2007-05-16 19:57
うーんオナガタイマイ・・・・・ベトナム・・・・・これを見ると甥っ子の所を急襲しようかな・・・・・しかし贅沢な吸水集団ですな・・・・・
Commented by chochoensis at 2007-05-16 20:04
fanseabさん、いつもながら素晴らしいシーンに感謝です・・・オナガタイマイの姿が好きですが、コモンタイマイの翅表が素晴らしいですね・・・こういう色彩が自然の中で観察できるなんて素敵でしょうね。
それにしても、この類の集団吸水・・・いつか見てみたいものですね、素晴らしい写真ありがとう・・・。
Commented by cactuss at 2007-05-16 20:56
いろんなアゲハがいて、うらやましいです。
ミカドアゲハなどの集団吸水は見応えがありますね。
日本では1頭でもなかなかお目にかかれないのに、これだけいると壮観ですね。
Commented by fanseab at 2007-05-16 22:02 x
kenkenさん、確かにオナガタイマイの色あいは日本では見られない組合せで魅力的ですね。コモンタイマイ、蝶道を飛んでいる時はベトナムでも撮影は不可能です。多様なGraphiumの撮影、この地域の蝶探索の大いなる楽しみです。
Commented by fanseab at 2007-05-16 22:05 x
ダンダラさん、小生も国内ではキチョウとかカラスアゲハの吸水集団を観察していますが、最大でも5-6頭といったところでしょうか?できれば数100頭単位の集団に出会ってみたい希望はあります。コモンタイマイの飛翔は偶然ながら、いい角度に被写体が飛び込んでくれてラッキーでした。
Commented by fanseab at 2007-05-16 22:09 x
nomusan、貴殿も脳みそとろけますか?小生も撮影中にとろけて、時々ピントが甘くなってしまいました(爆) 興奮すると単にシャッターを押すだけ状態に陥ります。ミカド、貴殿には身近な被写体だけに、亜種間差異を実感されると思います。
Commented by fanseab at 2007-05-16 22:12 x
kmkurobeさん、まいどどうも。是非是非ベトナムに飛びましょう!オナガタイマイが貴殿をお待ちしておりますよ~(笑) オナガを狙う場合は標高500mを越えるようなポイントをお勧めします。
Commented by maeda at 2007-05-16 22:15 x
fanseabさんの絵を見ながら思うことがあります。
時間がなくて東南アジアへ出掛けられない方が体にはよいかと。
多くの種のいろいろな場面を撮りたくなって、無理をしそうな私が目に浮かびます。
北海道それなりに撮ったら行ってしまいそうで怖いです。
Commented by fanseab at 2007-05-16 22:15 x
chochoensisさん、コメント有難うございます。コモンタイマイは現地で見ると、裏面の褐色地色が優ってそれほど綺麗には見えません。翅表の美しさは一瞬を切り取る生態写真ならではですね。
吸水集団はいつ見ても感動します。
Commented by fanseab at 2007-05-16 22:19 x
cactussさん、黒系以外のアゲハ類は種類が多くて、同定も慣れないと難しいですね。集団吸水の条件は微妙でして、冒頭の写真を再度狙う目論見で、毎日畑に出向いたんですが、、これだけの数は集まってくれませんでした。
Commented by fanseab at 2007-05-16 23:02 x
maedaさん、アジア遠征病に罹って4年ほど経ちますが、仰る通り、狙いを絞らないと体がいくつあっても足りません。今回も実はあるタテハ1種に目的を絞り、それ以外は無理をせず撮る方針で臨んでいます。朝6時過ぎから撮影活動をスタートして、昼間は軽く昼寝をする等の体力温存をしないと体がパンクしますね。それほど撮影条件は過酷です。
Commented by banyan10 at 2007-05-17 18:14
ミカドは八重山だとこっちに近いのでしょうが、いずれにしても未撮影です。昨年の石垣では数日の差で集団吸水見れなかったようです。(^^;
コモンタイマイもですが、緑色がいいですね。形状と合わせてオナガタイマイが気に入りました。
Commented by fanseab at 2007-05-17 21:56 x
BANYANさん、国内でミカドを観察したことがないのですが、皆さんの写真を見る限り、ベージュ色斑紋の日本本土産がより品格があるように思います。緑色系のアゲハは日本にいないので大変魅力的ですね。
Commented by 6422j-nozomu2 at 2007-05-17 23:40
第2弾はアゲハですか。大型美麗種と言えばこの仲間ですね。どれもこれも見たことがない蝶ばかりで感動いたしました。コモンタイマイの表面実に綺麗ですぅ。シロチョウ、タテハ、シジミと3弾、4弾・・・・が続きそうですね。目が離せません。
Commented by 空飛ぶ百合香 at 2007-05-18 22:04 x
fanseabさん、小テストが終わったのでやっとコメントできます!
私たちのことを紹介してくださってありがとうございます。ミカドアゲハは山口よりも青いですね。南に行くほど青くなるのですね。集団でいるのを見たらドキドキします。

教えてもらったのですが、コモンタイマイは私の住む山口県に迷蝶で来ていたことがあるらしいのです! すごく綺麗ですね。飛翔がすごいです。こんなにきらめいたグリーンの蝶って日本にはいないですよね。オナガタイマイも実物をみてみたい!と強く思いました。
Commented by fanseab at 2007-05-18 22:56 x
ノゾピーさん、まいどどうもです。アゲハ類はできれば訪花シーンを撮影したいところですが、意外と撮影チャンスに恵まれません。皆さん、コモンタイマイに魅力を感じられるようですね。確かに飛翔の力強さと斑紋のバランスがいいですね。次回シリーズもお楽しみに!
Commented by fanseab at 2007-05-18 23:02 x
空飛ぶ百合香さん、小テストお疲れ様です。やれ中間だ期末テストだとか、大変でしょうが、頑張ってください。ミカドはご存知の通り、日本が北限です。寒い日本に住む個体も撮影したいなと思っています。コモンタイマイ、仰る通り、南西諸島や九州等に迷蝶で来ますので、台風シーズンはご注意あれ!オナガタイマイの飛んでる姿はシロチョウに見えるんですよ!
Commented by thecla at 2007-05-19 17:22 x
集団吸水、オナガタイマイ、コモンタイマイ、完全に脳みそとろけますねえ。まさに至福の時ではないでしょうか。
国内のミカドすら未見の私にとっては目の毒画像のオンパレードですね。
Commented by fanseab at 2007-05-19 23:28 x
theclaさん、アオスジアゲハ系の集団吸水については、昨年3月の北タイ遠征で願いが叶わず、2年越しでやっと出会うことができました。興奮して、どこにピントを合わせたらいいのか?集団吸水に慣れないとおろおろしてしまいます(^^;; まあ、これを至福の時と言うのでしょうね。
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