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探蝶逍遥記

香港遠征(10/6-9):その3

 さて、台湾勢と別れた後、一路、九龍半島の北西部に向けドライブです。ただ、残念なことに雲行きが怪しくなり、今にも降り出しそうな感じ。元朗(ユンロン)付近で会長さんから別の会員さんにドライバー・車をバトンタッチ。会長さんにはお礼を言って、ここでお別れ。しばらく走って行きついた先は、標高300m程度の低い山。「さあ、山頂を目指しましょう!」と言われましたが、小生ちょっと登山をする体力・気力もなく、麓に残ることにして、途中で合流した若手の昆虫屋さん数名が荒れた山に登って行きます。この麓、4WD車がダートトライヤルに使っているような乾燥した荒地。スゲ類にサルトリイバラやゼンマイが混じる環境で、丁度東播磨のヒメヒカゲポイントのような雰囲気。
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 しかし、ここは何も期待できないな・・・とボンヤリ歩いていると、何と路傍の葉上にキマルリ!相当なスレ品で尾状突起も一部欠けていますが、斑紋を検すると午前中、出会ったロヒタとは微妙に異なるシャマキマダラルリツバメ(Spindasis syama)。
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D70, ISO=500, F8-1/125、-0.3EV、内蔵ストロボ、撮影時刻:13時55分

 日本だと、ハリブトシリアゲアリのホストとなる古びた桜や松の木が周辺にあるはずですが、このポイントには古木も無く、ここ香港のキマルリと同居する蟻さんは一体、どんな植物をホストにしているのか?考え込んでしまいました。このキマルリ、複数の個体を検したところ、いずれもかなりのスレ品。どうやら、本種を狙うには時期が遅すぎたようです。

 次に埃っぽい道路脇に飛ぶ灰色シジミを追いかけて撮影。タイワンツバメシジミ(Everes lacturnus)の♀でした。
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D70, ISO=500, F8-1/40、内蔵ストロボ

 日本では九州南部で絶滅危惧種扱いの珍品ですが、ここ香港では外道?扱いのシジミとなります。ただ撮影した裏面を良く見るとなんとなく変!どうやら後翅の1部が羽化不全で外縁部の白化した変異個体でした。

 埃っぽいダートコース?を離れて、入口に駐車している林縁に戻ると、焦げ茶色のジャノメが薄暗い草叢に出現。相当敏感で、追い回した挙句、ようやく撮影に成功。ウスマダラシロオビヒカゲ(Lethe rohria)♀でした。南西諸島で見られるシロオビヒカゲよりも前翅の白帯がキリリとして印象的なヒカゲチョウです。
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D70, ISO=500, F4.5-1/160 

 山頂を目指した仲間もようやく戻ってきた様子。聞いてみるとさしたる成果もなかった由。やれやれ一緒に登らなくてよかった(^^;; 午後3時過ぎ、今度は全員で、夕方ヒルトッピングしてくる蝶を是非探そう・・・と別の山に移動。「エーッ、また登山ですかあ~」と小生。ドライバーの某氏曰く「昨日登られた馬鞍山に比べれば、なあに、丘みたいなもので、簡単ですよ・・」と安心させる台詞。ただ、昨日のこともあるので、こっちも慎重になります。急に朝食から何も食べていないことに気が付き、別れ際に会長さんから頂いた月餅(丁度、香港は中秋の名月を祝う時期で月餅を食す習慣あり)を車中で頬張り、昼食代わりとします。

 さて、件の「丘」(とんでもない、立派な「山」じゃないか!!)に到着。少々疲労気味の小生の姿を見かねて、ドライバー氏が折りたたみ式のアルミ製杖を貸して下さる。このポール、滑りやすい山道を歩くのには優れもの。杖の助けも借りて、ようやくピッチを上げて山を登ります。見晴らしが開けてくると、不思議なもので、元気が出てきてますます登りのピッチが上がり、中腹の小ピークにたどり着きました。腰を下ろして給水していると、風に乗って突如淡いブルーのタテハが出現。ヒルトッピングしてきたアカボシゴマダラでした。暫く待つと、数が増えて常時5頭のアカボシがテリ張り争いで壮絶なバトルが始まりました。新鮮、ボロ入り混じった争いでしたが、どういう訳か、少しスレた個体が勝利したようで、見晴らしの良い場所を占有しました。
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D70, ISO=500, F4.5-1/400、撮影時刻:16時00分

 日本では神奈川県下で放蝶個体が拡散している札付き?のゴマダラチョウです。小生は幼虫はともかく、成虫を見るのはこれが初めて。慣れてくると、すぐにアカボシと断定できるようになりました。ただ飛翔中は淡いブルーの印象が非常に強く、肛角部の赤班は静止して初めて気が付くといった感じ。小ピークの岩場に立っていると、アカボシが小生にまとわりつくように周回飛行をします。これは飛翔写真撮影のチャンスと考え、超広角レンズに交換して恒例の連射スタートです。ピークに立つ会員氏をバックにしたショットをご覧ください。
香港遠征(10/6-9):その3_f0090680_2261810.jpg
D70S-10.5-X1.4TC, ISO=500, F7.1-1/500、-0.3EV、内蔵ストロボ(調光補正-0.3EV)

 夕方、それも曇りの条件下なので、どうしてもストロボがやや露出オーバー気味になり、多少不自然な画像になっているのは容赦願います。小ピークでのバトルにはお馴染みのヒメアカタテハやアカタテハ、これにセセリ類も加わって飽きの来ない眺めでした。さて、本日のフィナーレを飾るのは実はアカボシではなくて、最も期待していたタカネフタオシジミ(Tajulia cippus)♂です。アカボシを観察した小ピークを離れ、ほどなく山頂に立つと、360度の展望が広がります。新界地区北西部の豊かな田園風景は素晴らしい眺めでした。
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D70S-10.5-X1.4TC, ISO=320, F6.3-1/40、+0.3EV

 この山頂にタカネフタオがヒルトッピングしてくるとのこと。来るには未だ早い・・・とひたすら山頂で風に吹かれながら「その時」を待ちます。そうして、16時15分頃、やっと1頭が飛来。素晴らしく俊敏なシジミです。ヤドリギ食いのこのシジミ、普段は樹冠で昼寝していて夕刻、上昇気流に乗って山頂でテリ張りをする独特な行動を有するようです。その後、数が増え、都合3頭の♂が飛来。キリシマミドリシジミ♂を思わせる壮絶なバトルの開始です。静止写真を撮ろうとレンズを向けると突然、スクランブル発進して撮影できない・・・。7月下旬に鈴鹿で体験した全く同じシーンが再現されます。それでもようやく粘って新鮮な個体の閉翅シーンの撮影に成功。
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D70, ISO=500, F8-1/400、+0.3EV、内蔵ストロボ、撮影時刻:16時32分

 灰白色の裏面、外縁部を走る黒い破線、非常にシンプルかつ、高貴な佇まい。4本ある尾状突起も長く、シジミ好きでなくても涎が垂れる蝶でした。少しスリスリした後翅からは表翅のブルーがチラリと覗いています。閉翅写真を撮ってしまうと、後は「早く開かないかなあ・・・」と思うのが人情。その小生の思いが通じたのか、ついにご開帳です(^^) 初日の項でご紹介したイチジクシジミよりも更に鮮やかで明るいブルーが輝いています!!疲労困憊の中、登山し、山頂で粘った苦労が報われた瞬間です。これぞ蝶撮影の醍醐味と言えましょう。今回遠征のベストショットに近いので、少し大きめの画像を貼ります。
香港遠征(10/6-9):その3_f0090680_2272936.jpg
D70S-VR84@400mm, ISO=500, F8-1/320、-0.7EV、内蔵ストロボ(調光補正-0.3EV)、撮影時刻:16時46分

 撮影に夢中で気が付くと、既に陽が沈みかけた午後6時。満足感一杯で下山しました。もちろん、登りとは異なり、下山はウキウキしてあっという間に降りてしまいました。一緒に撮影に付き合って頂いた地元の皆様。本当に有難うございました。次回は香港滞在最終日の観察日記をお伝えしましょう。
by fanseab | 2006-10-29 22:12 | | Comments(14)
Commented by 虫林 at 2006-10-29 23:23 x
また東南アジアシリーズの再開ですね。楽しみにしています。
今回はタカネフタオシジミの開翅が何といっても秀逸ですね。あの目も覚めるような青の幻光をファインダーで覗いたらたまりませんね。
幸せ者ですよ!
Commented by nomusan at 2006-10-29 23:26 x
お~!これは素晴らしいですね! このメタリックなブルーは国産ではちょっとない色ですね? 見たことない蝶にわくわくします。ウスマダラシロオビヒカゲですか、これもエエですね~。素晴らしいです。
Commented by fanseab at 2006-10-29 23:43 x
虫林さん、早速のコメント有難うございます。テリを張るタカネフタオは当然、見晴らしの良い方向を向くのですが、これは崖の向こう側でありまして(^^;; 開翅の撮影チャンスは非常に少なかったんです。ファインダー内でキラリと開く瞬間はさすがにドキドキものでした。
Commented by fanseab at 2006-10-29 23:47 x
nomusan、まいどどうも。メタリックブルー、確かに国産品にはないかもしれません。強いて挙げれば、ルリウラナミシジミかな?ウスマダラ・・・、この渋いヒカゲがお好みですか?さすがお目が高い!お手元にある図鑑のシロオビヒカゲと比較されると、裏面基部側の違いが良く理解できると思います。
Commented by banyan10 at 2006-10-30 11:56
同じ蝶でも日本産と違うのもあれば、ほぼ同じものもあって興味深いですね。
タカネフタオですか、僕もルリウラナミに近い色と思いましたが、より青が濃いですね。
登る山と下で撮影する山の選別も見事でしたね。(^^;
Commented by kenken at 2006-10-30 12:32 x
なんとかデータ修復されたようで何よりです。私、撮影を終えて帰宅してバックアップ取るまでは安心しないようにしています。
最後の撮影地の展望は素晴らしいですね。
さらに、このタカネフタオシジミ、こりゃえぇ蝶やぁ~VR400mmの威力も抜群のようで、うっとりする絵です。確かにフタオですな、SPINDAに勝るとも劣らない尾突です。また、この写真のアングルも最高で、1枚で表裏共にばっちりで、表裏のコントラストが涙ちょちょぎれますわぁ。
Commented by maeda at 2006-10-30 20:28 x
一瞬、キリシマを思わせるこのシジミ、綺麗ですね。
仲間が何種もいたように思います。
キマルリ兄弟も良いです。よく分かりませんが、1頭採集品があります。
Commented by cactuss at 2006-10-30 21:13
タカネフタオシジミの開翅写真はすばらしいですね。VRの効果でブレもまったくない。こんなシーンを前にしたらちょっと平常心ではいられないでしょうね。いい写真を見せて頂き、ありがとうございました。
Commented by fanseab at 2006-10-30 23:30 x
BANYANさん、香港は八重山でも見られる蝶と南アジア特有の蝶が混在しています。タカネフタオのブルーはやはりちょっと独特な輝きがあります。
<登る山と下で撮影する山の選別も見事でしたね
ハイ、結果的に上手くいきました(^^)
Commented by fanseab at 2006-10-30 23:34 x
kenkenさん、データバックアップを取ったつもりが・・・で一瞬焦りました。うっかりミスは怖いです(冷汗) 。タカネフタオ、恐らく貴殿なら確実にハマッテしまうシジミでしょうね。夕方テリを張る、フタオであること、この辺はキマルリそっくりですが、表翅のブルーは異質なものです。
Commented by fanseab at 2006-10-30 23:38 x
maedaさん、タカネフタオの飛翔能力はキリシマ並です。この仲間のTajulia属を専門にコレクションする方もいるほど魅力的なシジミの種群と言われています。キマルリのsyamaもlohitaも東南アジアでは普遍的に分布するシジミとされています。
Commented by fanseab at 2006-10-30 23:41 x
cactussさん、コメント有難うございます。東南アジアで初めて会う蝶と対面する時はいつも足が浮ついてしまいます。タカネフタオの時もそうでして、それこそ無我夢中でバシャバシャ連射して、この画像の裏には無数の没画像があります。
Commented by 6422j-nozomu2 at 2006-10-31 22:55
ほとんど初めて拝見する蝶ですが、何十万種類もいるのに同じ模様の蝶がいないのは、神が作り賜わし芸術作品だと思います。一流の絵描きに1万種類の蝶を書いてくださいと注文しても多分書けないですものね。やはりラストの写真が光っていますぅ。

Commented by fanseab at 2006-10-31 23:52 x
<神が作り賜わし芸術作品だと思います
ノゾピーさん、御意でございます。貴殿の撮られたサツマシジミのブルー、そしてタカネフタオのブルー、神にしか描けないブルーの千変万化と言えましょうか。
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