探蝶逍遥記

キタテハの盛衰

 キタテハについてちょっと書いてみたいと思います(添付写真はいずれも9/2-3撮影)。
 キタテハと言えば、どこにでも飛んでいる普通種のイメージですね。ところが、都市近郊では確実に減少傾向にあると感じています。小さい頃、東京都郊外で遊んでいた小生にとって、キタテハはタテハの代表で、良い遊び友達って感じでした。秋型が飛ぶ頃になると、裏面のC文字をしげしげ眺めて、「シータテハとは違うかなあ?」と何度も図鑑と照合し、「やっぱりキタテハかあ~」と落胆する・・・そんな毎日を送ってました。想いが高じて、キタテハ秋型の翅に鋏を入れてギザギザにして「偽シータテハ」を造ってボール紙とセロファンで自作した標本箱にしまったり、今から思えば涙ぐましい努力をしたものです(^^;;

 さて、先日(9/2-3)、多摩川でギンイチを探索した際、夥しい個体数のキタテハに遭遇し、ビックリしました。いつからこんなに増えたのか?それが疑問でした。多摩川畔での定点観測はかれこれ15年ほど続けていますが、7-8年前にはキタテハは殆ど見ることができず、個人的に本地域の絶滅危惧種にカウントしておりました。それが急に増えたのです。理由を考えてみました。

 一番の理由は当然ながら、食草カナムグラの復権だと思います。カナムグラは線路脇とか荒地(ちょっとした広場)に生えるツル性植物で、30年位前は、東京郊外の住宅地近辺にはどこでもはびこっていたものです。それが、いつのまにか、減ってきました。最近の公園は管理が行き届き、カナムグラのようなツル性植物はすぐに刈り取られてしまうように思えます。要は都会から「ちょっとした広場」なんて無駄な物が無くなったんですね。それと、「ちょっとした広場(原っぱ)」の主役がカナムグラやクズからセイタカアワダチソウやブタクサ等の外来植物に遷移してきたことも見逃せません。

 多摩川に話を戻すと、実は7-8年前にマイ観察ポイント付近の植生を変化させる一大イベントがありました。従来、東京都側と神奈川県側に分流していた多摩川の流れを行政が強制的に東京都側に一本化したのです。これは劇的な植生変化をもたらしました。この工事から2年間程度は川の流れ跡が沼として残っていたのですが、やがて完全に乾燥し、それまで周辺に生えていたススキは全滅、代わってそこにはセイタカアワダチソウ、ブタクサ、オオマツヨイグサ、アレチウリ等の大群落が形成されたのです。
 ススキが無くなれば、これに依存するギンイチモンジセセリ、ミヤマチャバネセセリにとって致命的です。もともと個体数が多くなかったミヤマチャバネは個体数の減少がそれほど顕著ではありませんが、ギンイチは確実に減少の一途を辿りました。

 皮肉なことに、多摩川の乾燥化で恩恵を蒙ったのがキタテハだと睨んでいます。川縁の土手とセイタカアワダチソウ等の群落の隙間に生えるカナムグラが数年前に比べ明らかに増えました。
 そして、先日のキタテハ大乱舞に出会ったのです。とにかく、モンシロやイチモンジセセリを押しのけて、咲いている花はすべて吸蜜占有しているのではないか?と思わせるほどの個体数。やっと、小学生の頃、当たり前だった光景に出会ったのでした。しかし、キタテハ増加の裏にはギンイチを大幅に減少させた乾燥化があるのです。行政が「多摩川の氾濫から住民を守る」等の名目で実施した河川工事。本音は河川管理のコストダウン(手抜き)を図りたかったのでしょう。その代償は我々蝶屋にとって、あまりにも大きかったと思います。いや、蝶屋だけではありません。それまで釣り糸を垂れていた神奈川県側住民のささやかな楽しみまで奪ってしまったのです。
 でもキタテハには何も責任はありませんね。数が多いので求愛(拒否)場面や飛翔撮影のチャンスには事欠きませんでした。各々代表的な写真を2枚貼っておきます。多摩川の植生変遷と蝶相変化の件は、いずれ某紙にでも投稿し、記録として残そうと思っています。

f0090680_21115367.jpg
D70S-10.5-X1.4TC, ISO=500, F10-1/200、撮影時刻:17時06分

f0090680_211291.jpg
D70S-10.5-X1.4TC(トリミング), ISO=500, F8-1/500、内蔵ストロボ(調光補正-0.3EV)、撮影時刻:8時20分
by fanseab | 2006-09-15 21:19 | | Comments(8)
Commented by maeda at 2006-09-16 19:43 x
このキタテハ浮き上がっていますね。
ストロボの効果を感じられますね。
私にはまだ未知の世界で、今後の課題です。
Commented by fanseab at 2006-09-16 21:26 x
maedaさん、こんばんは。
正直言って、この画像では少しストロボが勝ち過ぎて、露出オーバーとなり、浮き上がった感じが強調され過ぎています。理想はもう少し不自然な感じを与えない画像なので、その辺の修正が今後の課題と考えています。
Commented by kenken at 2006-09-17 07:39 x
そう、子供の頃、どこがL字型で、どこがC字型やねん?どこが「黄」色やねん?なんて、じっくり蝶をみたもんです。
fanseabさんらしい、こまめな観察基づく記載ですね。なるほど、なるほど・・・我が家の近隣、キタテハは増減なく健在という感じです。河川沿いにカナムグラ多いですわ。
この横からの求愛は交尾拒否のパターンですな。
Commented by 6422j-nozomu2 at 2006-09-17 19:57
15年も多摩川定点観測されているのですか。それだけでも凄いですね。なるほど、ギンイチが減り、キタテハが増加、そういう原因があったのですね。蝶屋としては、どうしてもレア度をメインにしてしまうので、微妙な心境ですね。蝶の生き死には人為的にどうにでもなること、つくづく考えさせられます。
Commented by fanseab at 2006-09-17 22:59 x
kenkenさん、まいど。今回の記述は統計的データに基づくものではなく、感覚的な盛衰をコメントしたものです。普通種と言えども、個体数の変動は微妙な生態バランスにある・・・これが書きたかった内容です。交尾拒否シーン。他種だと、翅を震わしたり、せわしないですが、キタテハの場合は♂も♀もじっと動かず、我慢比べの様子が面白いです。
Commented by fanseab at 2006-09-17 23:07 x
ノゾピーさん、定点観測しているマイポイントは手軽な散歩コースでもあるので、長続きしています。やはり、手近なポイントは貴重です。
<蝶の生き死には人為的にどうにでもなること・・・
来年はこのポイントにアカボシゴマダラが舞うことも予想され、複雑な心境です。
Commented by thecla at 2006-09-17 23:12 x
カナムグラは、昔はちょっとした空き地にいっぱいありましたね。多摩川近辺には、そんな空き地はとんとみなくなりました。
継続的に観察しているからこその視点ですね。
キタテハの交尾拒否は、土手の暗さと青い空のコントラストがアクセントになっていてとても好きな図です。
あえて左半分にまとめているのが素晴らしいと思います。今日のような天気に見るとまた格別ですね。
Commented by fanseab at 2006-09-18 20:05 x
theclaさん、コメント有難うございます。多摩川も野球場が作られたり、結構手が入りますから、自然の空き地が成立しなくなりましたね。キタテハの場面は夕方だったので、仰るように空の深みが強調されて、キタテハの橙色とコントラストがつきました。
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