探蝶逍遥記

ムラサキツバメの産卵(9月中旬)

 比較的身近に観察できるシジミ類産卵シーンの中で是非とも仕留めたい対象としてムラサキツバメがあります。今回はいつも晩秋に越冬集団観察を実施している東京都内の公園を訪れました。真っ先に向かったのは越冬集団が形成されるマテバシイご神木近辺。しかし、マテバシイのヒコバエ(実生)に卵の姿はなく、幼虫の巣ばかり目立ちます。

+++横位置画像はクリックで拡大されます+++
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GX7-P8、ISO=400、F14-1/30、外部ストロボ、撮影時刻:10時00分

 葉裏の巣を捲ってみると、大きな終齢幼虫がアブラムシ幼体と共棲しておりました。
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D71K-85VR、ISO=200、F10-1/320、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時06分

 本種幼虫がアブラムシ類と共生関係にあるのか?興味深い疑問点です。次に卵を見つけるべく、広い公園のあちこちを探索。ようやくマテバシイ実生上で複数のシジミ卵を発見。恐らくはムラサキツバメのものと思われますが、現行犯逮捕(産卵現場の確認行為)をしなければムラツとの保証はありません。更にウロチョロしていると、ようやくマテバシイ実生に絡みつくような飛翔をしているムラツ♀の姿を発見。これがその実生。
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D71K-85VR、ISO=100、F10-1/320、-1.0EV、撮影時刻:11時22分

 高さは1.5m程度。南向きで陽当たりの良い場所です。そのうち♀は枝に乗り移りました。さては産卵か・・・と身構えると、どうやらアブラムシの分泌液を吸汁しているようです。
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D71K-85VR、ISO=200、F11-1/200、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時56分

 既に産み付けられた3卵(矢印)が確認できます。その後、母蝶は飛び立ち、新芽付近などに着地→飛翔→着地を繰り返しながら、ようやく1卵若葉の葉裏に産み付けました。
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D71K-85VR、ISO=320、F11-1/320、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:11時02分

 その後、複数回の撮影チャンスがありました。
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D71K-85VR、ISO=320、F11-1/320、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:11時04分
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D71K-85VR(トリミング)、ISO=400、F11-1/320、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:11時09分

 2枚目の産卵シーンはアブラムシの群生している茎上に産み付けております。孵化した初齢幼虫がアブラムシの分泌液をひょっとしたら栄養源にしているかもしれない・・・と思わせる光景です。3枚目は薄暗い根元に近い太い茎に産んだ事例で、腹端付近に青緑色の卵が確認できます。ムラツ卵も他のシジミ類同様、産みたては鮮やかな翡翠色をしており、時間の経過と共に白色へ変化していきます。

 産卵行動はほぼ連続して数卵産み付けた後、マテバシイ葉上に開翅日光浴、もしくは吸汁行為で英気を養い、再び産卵行動に移ります。
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D71K-85VR、ISO=200、F11-1/320、-1.0EV、撮影時刻:11時02分
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D71K-85VR、ISO=400、F10-1/320、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:11時12分

 ↑の2枚目はマテバシイの葉上に滴下したアブラムシの分泌液を吸汁しているものと思われます。また、上記産卵行動の途中、突然母蝶は姿を消してしまいます。そうして5分間ほど経過するとまた元の実生に戻り、産卵行動を再スタートさせます。姿をくらましている間は、他の実生に移動しているのか?樹冠高い位置で休息しているのかは定かでありません。昼過ぎまで観察してみましたが、11時過ぎが産卵行動のピークで、正午過ぎは吸汁・開翅休息行動が目立ち、産卵行動は確認できませんでした。午後にもう一度産卵時間帯のピークが訪れるのか?確認が必要ですね。

 さて、定番の卵拡大像撮影にももちろんトライしました。ところがこれが結構難物で一苦労しました。マテバシイ成葉の葉裏への産卵状況です。
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D71K-85VR(トリミング)、ISO=100、F10-1/320、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:11時22分

 2卵確認できますが、当初、2卵共にムラツ卵だと思い、拙宅に戻ってから後日拡大撮影をトライしました。ところが撮影途中、どうも表面構造が異なることに気づき、結果、↑の葉裏画像で#1はムラツで間違いないのですが、#2はムラサキシジミの卵であることが判明。2卵が別物であることに気が付いたものの時既に遅し、2卵共孵化しておりました(^^; そこで慌てて近所のマンションの植え込みを緊急探索し、マテバシイよりムラツと思しき卵を確保し、再撮影。事なきを得ました。先ずは問題のムラサキツバメ卵の拡大像です。
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GX7-P1442@42mm-P14R(トリミング+上段5コマ/下段4コマ深度合成)、ISO=200、F13-1/250、外部ストロボ、撮影時刻:22時22分

 直径0.70mm。高さ0.38mm。卵直径はルリシジミよりは大きいものの、アサマシジミよりは小さく、母蝶の図体を考えると、大変に小さい卵です。表面は細かい網目構造で囲まれ、その網目交点から針状突起が伸びております。ここで同じArhopala属のムラサキシジミ卵と微構造比較をしたのが次の画像(画像をクリックし拡大してご覧下さい)。
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ムラサキシジミ卵の撮影条件:GX7-P1442@42mm-P14R(トリミング+上段4コマ/下段5コマ深度合成)、ISO=200、F13-1/250、外部ストロボ、撮影時刻:22時11分

 両者の形状・サイズ・微構造は酷似しております。実際肉眼、および10倍のルーペ上で、両者を判別同定することはほぼ不可能。いつも愛読している図鑑(※)にはムラツ、ムラシ両卵の特徴点として下記の記述があります。
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<ムラサキツバメ>
ムラサキシジミに比べて直径は小さいが高く、卵殻表面の針状突起は短い。
<ムラサキシジミ>
ムラサキツバメに似るが、本種のほうがやや大型、扁平であり、針状突起はより長い。
※福田晴夫他、原色日本蝶類生態図鑑(Ⅲ)、1983.保育社、大阪.
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 他方、管理人が撮影した結果からは下記のようにまとめられます。

①両種のサイズ、扁平度にそれほど極端な差異は認められない。
②針状突起の長さもほぼ同じ。但し、突起形状は両者で異なり、ムラツは東京スカイツリーのように基部から先端までの直径はほぼ同じ。一方、ムラシは東京タワー、もしくはエッフェル塔のように基部付近は太く、先端方向へ徐々に窄まるタイプ。
 また、両者で一番異なるのはサイズ・扁平度ではなく、
③表面の網目構造です。真上から卵を観察した際、ムラシに比較してムラツの網目は細かく、網目で囲まれた凹部壁面は楕円形など曲面で構成されています。一方、ムラシの当該凹部壁面は多角形状です。さらに側面から見ると、網目の大小差は一目瞭然で、ムラツは網目がより細かいのです。

 上述したように、当初マテバシイ葉裏から見出した2卵の見分けがつかなかったのにも得心がいきました。ムラツもムラシも多化性故、両者♀が同時期に産卵する可能性は十分にあり、「マテバシイ=ムラツが産卵」との固定観念があったがために生じた思い込み・失敗でもありました。何はともあれ、ムラツ産卵シーンと卵拡大像が無事ゲットできてホッといたしました。
by fanseab | 2015-09-25 23:07 | | Comments(6)
Commented by himeoo27 at 2015-09-26 18:29
ムラサキシジミとムラサキツバメの卵が
これほど近似しているとは驚きました。
私の撮った写真では、全く判別できない
程度の差異ですね!
Commented by fanseab at 2015-09-26 21:09 x
himeooさん、シジミ類のゼフ、特にFavonius属の卵も強拡大してみないと、その違い
が分かりません。一方、ムラシとムラツはもう少しはっきりとした差異があると想定
しておりましたが、想定外なほど、類似した顔形をしているのに驚きました。
Commented by twoguitar at 2015-09-27 15:08 x
ムラツ、ムラシの卵の微細表面構造の違いが明瞭に分かる写真ですね。
ますます腕に磨きがかかっていますね(今までどおりでしょうか)。
いつか卵図鑑にこぎつけてください。
Commented by fanseab at 2015-09-27 20:38 x
twuguitarさん、コメント有難うございます。
今回、両種卵の側面拡大画像を撮影中、微構造差に初めて気が付きました。
真上から見込んだアングルからは、撮影中、差異に気が付かなかったのです。
食樹がアラカシであれば、ムラシは産むけど、ムラツは産まない、故に卵は
ムラシの筈・・・と結論づけやすいのですが、マテバシイの場合は難しいです。
Commented by Sippo5655 at 2015-09-27 22:36
勉強不足の私には、この記事の全てを理解するのに
何日かかかりそうです(汗)
なので、簡単に書けそうなコメントでご容赦を・・

先日、ムラサキツバメと思われる個体が、
いきなり空から降ってきて、
草間に潜り込み、横たわりました。

草をかき分けるとまた飛び去りました。

この行動は、何だったのでしょうか・・・??

ムラツ 近所のフィールドでやっと成虫を撮影できました。

この冬は越冬個体を見つけたいです。
Commented by fanseab at 2015-09-29 22:27 x
Sippo5655さん、その個体は何がしたかったのでしょうね?
恐らく、天気が良くて気温が高ければ、下草に潜り込んで
吸水行動をしていた可能性もありますし、気温が低ければ、
活発に飛ばないで、下草に降りて傾斜日光浴でもしていたのかも
しれません。そちらでの越冬個体探索、頑張って下さい。
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