探蝶逍遥記

台湾宜蘭縣遠征記(11)タテハチョウ亜科およびテングチョウ

 タテハチョウ亜科のトップバッターは日本でもお馴染みのルリタテハ(Kaniska canece canace)。雨上がりの木陰で占有行動中の♂です。

+++画像はクリックで拡大されます+++
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D71K-34、ISO=500、F11-1/500、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時49分(5月31日)

 この子のすぐ傍で鍔迫り合いをしていたのが、別個体の♂。
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D71K-34、ISO=500、F11-1/800、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時50分(5月31日)

 こちらは無傷の完品個体。とても綺麗ですね! ここで日本本土産♂との比較図をご紹介しましょう。
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日本本土産亜種は5月中旬に羽化した飼育個体

 両者で光線状態が違うため、微妙な色彩差は上手く表現できていないことはご承知おき下さい。識別点は比較図に記載した通りですが、最大の識別点は前翅中室端の斑紋Cの色彩。ここが白いのが日本本土産亜種の特徴で台湾産(名義タイプ亜種)はブルーになります。台湾産はA,B部分の巾が広いこともあって、文字通りの「瑠璃タテハ」の外観を呈します。
 次はSymbrenthia(キミスジ)属。台湾には従来、キミスジ(S.lilaea)とヒメキミスジ(S.hypselis)の2種が知られており、キミスジは中国南部亜種lunicaと台湾固有亜種formosanaが記録されております。ところが、最近の研究でキミスジ台湾産亜種を独立種(S.formosana)とする見解が出ております。ここではそれに従い、キミスジ属2種、lilaeaformosanaをご紹介します。formosanaについては現在和名が定着していないので、ここでは仮に「タイワンキミスジ」としておきます。
 最初はタイワンキミスジの♀。
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D71K-34(トリミング)、ISO=500、F10-1/640、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時15分(5月29日)

 既に産卵モードに入っておりましたが、肝心のシーンは撮影できずガックリ(^^; 個体数は結構多かったように思います。次は求愛シーンの後、小休止した♀♂ペア(左が♀)。
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D71K-34、ISO=500、F11-1/640、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:11時10分(5月29日)

 両個体共、羽化直に近い新鮮さでした。次はキミスジ♂。
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D71K-34(トリミング)、ISO=500、F11-1/500、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時53分(5月29日)

 この子も将に羽化直で、左後翅尾状突起付近の葉上に淡いチョコレート色の蛹便が確認できます。実はこのキミスジの2m先にはタイワンキミスジ♀が飛んでおり、両種は確実に混棲しておりました。ここで、タイワンキミスジとキミスジの識別用比較図をアップしておきましょう。ストック画像の関係で、タイワンキミスジは♀個体、キミスジは♂個体を使用している点はご容赦下さい。
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識別点は下記の通り。
(1)前翅中室棍棒状橙色班:A部分
タイワンキミスジは分断。キミスジは連続する。
(2)前翅1b室および2室亜外縁の橙色班:B部分
タイワンキミスジは分断傾向。キミスジは融合傾向。
(3)後翅中央橙色帯:C部分
タイワンキミスジは翅脈で分断され、各室斑がM字もしくは逆U字型パターンになる。一方、キミスジは翅脈で分断されることなく連続する。
 全般に黄橙色班がタイワンキミスジでは縮退傾向にあります。またここでは図示しませんが、後翅裏面中央の暗赤色条にも両種で明確な形態差があります。更に面白いことに、幼生期にも下記のような明らかな有意差が確認されております。
(4)卵の色と産卵様態
タイワンキミスジ:緑色で単独卵、キミスジ:淡黄色で卵塊形成
(5)幼虫の生活様式
タイワンキミスジ:単独生活、キミスジ:若齢時に群集

 管理人は種formosanaの原記載論文を直接検しておりませんので、lilaeaとの交尾器の有意差等については理解できておりません。なお、八重山群島で2005-08年に採集された「キミスジ」個体群は斑紋検証の結果、台湾からの飛来ではなく、中国大陸からの飛来もしくは人為的移動だろうと推定されております(※)。翻って、台湾に生息している亜種lunicaも本来は台湾に生息せず、外来種として台湾島内に拡散中と推定されます。島内固有種であるformosanaと食草(イラクサ科)は競合しており、外来種が台湾固有種を侵略している過程なのかもしれません。
 最後はお馴染みのテングチョウ(Libythea lepita formosana)。
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D71K-34、ISO=250、F11-1/500、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:9時11分(5月30日)

 台湾亜種は表翅橙色班の面積が日本本土産亜種celtoidesに比較して縮退するようですが、残念ながら翅を開いてくれなかったので、↑の画像からは両亜種の区別ができかねます。個体数は少なく、発生の端境期だった可能性があります。<次回へ続く>

※斉藤光太郎, 2009.八重山で採集されたキミスジの飛来源の推測.やどりが(219):2-8.
by fanseab | 2015-02-08 14:32 | | Comments(6)
Commented by himeoo27 at 2015-02-08 19:12
与那国島で台湾型のルリタテハを探して
みましたが、今のところ上手く撮影出来
ていません。
帯がすべて青色で綺麗ですね!
Commented by fanseab at 2015-02-08 21:38 x
himeooさん、八重山のルリタテハは本土産と台湾産の中間的な色調ですね。ただ八重山産は本文記事に書いたC部分が本土産同様白色が勝っていると思います。とにかく瑠璃色が目立つ個体は綺麗ですね!
Commented by Sippo5655 at 2015-02-09 21:48
ブルーが、より鮮やかな印象ですね!

ルリタテハって、逢える頻度にばらつきがあるような、、

あと、この子の幼虫。

幼虫も、どこか違うのかなあ・・・!?

キミスジもまた綺麗ですね!
Commented by fanseab at 2015-02-10 21:23
Sippo5655さん、そうなんです。ブルーがより濃い「ルリタテハ」ですね。仰る通り、このタテハはヒオドシチョウと違い、まとまって群れていることは少ないですね。状況は台湾でも同じでした。
幼虫が毒々しいのは台湾産でも一緒だと思います。直接確認はできませんでしたが・・・。
Commented by twoguitar at 2015-02-15 16:56 x
台灣遠征記、梅雨空の5日間の中で苦労・工夫して大きな成果を収められましたね。
台灣は日本と亜種違いにより、ルリタテハの斑紋の青い面積が増えるなど興味深く拝見させていただきました。
まだ巡り合っていないミカドアゲハの集団吸水シーンなど、夢のような光景ですね。
日本チョウ類保全協会の集いでは、絶滅危惧の崖っぷちでの保全活動に頭が下がる思いでした。
Commented by fanseab at 2015-02-16 21:30 x
twoguitarさん、集いのご参加、お疲れ様でした。
台湾の蝶は中国本土と地続きだった名残の種が観察できる点が興味深く、日本と共通種でも微妙に色彩・斑紋が異なるので、面白いのですよ。
集団吸水は日本国内だとせいぜいミヤマカラス等のPapilioで見られる程度ですが、海外ではシロチョウ類、Graphium類が大規模集団を形成するので、それを観察できるのも遠征の楽しみです。
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