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探蝶逍遥記

ヒメクロホウジャクの飼育メモ(蛹化まで)

 秋期に実施した鱗翅類飼育メモの第3弾です。今回はスズメガ科のヒメクロホウジャク(Macroglossum bombylans)。10月初旬、午後1時半頃、横浜市郊外の里山公園でホウジャク類♀の産卵シーンを偶然目撃しました。悔しいことにカメラを車に置いたままで産卵シーン撮影には失敗(^^;
 産卵植物はアカネ科のアカネ(Rubia argyi)でしたので、当初は絶滅危惧Ⅱ類(VU)のスキバホウジャク(Hemaris radians)と誤認しましたが、飼育が進んで終齢幼虫になった段階で、普通種のヒメクロと判明し、ちょっとガックリ。それでも蛾類で卵から蛹までのフルステージ飼育を手掛けたのはこれが初。貴重な体験となりました。最初は産卵状況。

+++横位置画像はクリックで拡大されます+++
ヒメクロホウジャクの飼育メモ(蛹化まで)_f0090680_2157157.jpg
GX7-Z60、ISO=400、F7.1-1/100、-0.7EV、内蔵ストロボ、撮影月日:10月7日

 アカネの新芽に多くの卵を産みつけておりました。とりあえず2卵を採卵。次に拡大像。
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GX7-P1442@42mm-P14R(トリミング+上段4コマ/下段2コマ深度合成)、ISO=200、F16-1/250、内蔵ストロボ(トリガー信号のみ)+スレーブ2灯、撮影月日:10月10日

 長径1.2mm、短径1.1mmの楕円形で、高さ0.96mm。ナミアゲハと変わらぬ大きさで、成虫の開翅長に比較して相当デカイ卵です。表面は微細な凹凸がありますが、ほぼ平滑でPapilio属の卵に類似した雰囲気。10/11に2卵ほぼ同時に孵化。初齢幼虫です。
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D71K-1855改@35mm(トリミング+上段3コマ/下段2コマ深度合成)、ISO=200、F13-1/250、-0.7EV、外部ストロボ+スレーブ2灯、撮影月日:10月13日

 体長7.4mm(尾角含まず)。頭部は模様が無く黄色、胴体も無紋でやや黄色味を帯びた緑色。尾角は漆黒。10/14に2齢。
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D71K-1855改@18mm(トリミング+上段2コマ/下段3コマ深度合成)、ISO=200、F9&13-1/320、-0.7EV、外部ストロボ+スレーブ2灯、撮影月日:10月17日

 体長12mm(尾角含まず)。頭部がやや緑色を帯び、胴体全体に伸びる白い側線が目立ちます。尾角は相変わらず漆黒。2齢途中で当初採取したアカネを食い尽くしたので、代替ホストとして記録のあるアカネ科のヘクソカズラを与えましたが、全く見向きもしません。仕方なく、採卵した里山公園に出向いてアカネを探索しましたが、「西向きで日当たりが良く、かつ水はけの良い急傾斜地」以外には生えておりません。分布はかなり局地的なので、この植物をホストとする鱗翅類はホスト確保で厳しい競争に晒されるものと思われます。葉を摂食中の2齢幼虫です。
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D71K-1855改@18mm(トリミング+2コマ深度合成)、ISO=200、F11-1/320、-0.7EV、外部ストロボ+スレーブ2灯、撮影月日:10月17日

 アカネは茎の長さあたりの葉の面積が小さく、幼虫は葉だけでなく茎も食べ尽くすのが特徴です。#1個体は10/19に眠、翌20日に3齢へ。#2個体は一日遅れて21日に3齢へ到達。
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D71K-85VR(トリミング+上段3コマ/下段2コマ深度合成)、ISO=200、F11-1/250、-0.7EV、外部ストロボ、撮影月日:10月21日

 体長は30mm。背面側および側面側にも2本の白色条線が走り、尾角は紺色へ変わり、その先端は黄色味を帯びています。頭部も緑色地色に淡緑色の縦線が入ります。#1は10/22に眠、10/24へ4齢(終齢)に到達。#2は10/25に4齢へ。
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D71K-85VR(トリミング+上段3コマ/下段2コマ深度合成)、ISO=160、F13-1/320、-0.7EV、外部ストロボ、撮影月日:10月26日

 体長は31mm。最終的には40mm程度まで成長しました。全体的な特徴は3齢とさほど変化はありませんが、頭部の地色がブルーに変わり、縦線が淡緑色から黄色に変化しております。また中胸・後胸部白色側線部がバラの棘のように上部に突き出る特徴があります。
 ここで初齢~4齢までの頭部性状の変化をまとめておきます。拡大倍率は各齢バラバラで縮尺は任意です。
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 なお終齢末期の食欲は大変なもので、あっという間にアカネを食い尽くすのでハラハラさせられました。#1,2共に下痢便を出した後、10/31に前蛹になりました。実はスズメガ類の蛹化は土中でなされることが多いことを知っていたのですが、飼育のノウハウは無知でした。そこで丁度10/18に開催された「日本鱗翅学会関東支部秋のつどい」で蛾類研究の大御所、K氏に教えを乞いました。すると「泥を使用せずとも新聞紙で代用可」とのご宣託。繭形成に支障がないよう、新聞紙を短冊状に切断し、これを食草のアカネに混ぜて、飼育用プラケースに敷き詰めました。#1、#2の繭形成の状況です。
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D71K-85VR、ISO=400、F11-1/60、-0.7EV、外部ストロボ、撮影月日:11月1日
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D71K-85VR、ISO=400、F11-1/125、-0.7EV、外部ストロボ、撮影月日:11月1日

 #1はほぼアカネの葉を綴り、#2は短冊状新聞紙を綴って繭形成をしております。#1個体繭の拡大像です。
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D71K-85VR(トリミング+4コマ深度合成)、ISO=200、F11-1/250、-0.7EV、外部ストロボ、撮影月日:11月1日

 茶褐色の糸は結構頑丈です。慎重に繭を切断して#2の前蛹を撮影。
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D71K-85VR(トリミング+3コマ深度合成)、ISO=200、F11-1/250、-0.7EV、外部ストロボ、撮影月日:11月1日

 体長29mm、蝶の前蛹と同じく体色は透明感が増し、白色側線も目立ちません。尾角を体軸に平行にしているのは蛹化時の脱皮を容易にするためでしょうか? 11/3に#1,#2共に蛹化。
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D71K-85VR(トリミング+上段3コマ/下段2コマ深度合成)、ISO=200、F11-1/320、-0.7EV、外部ストロボ、撮影月日:11月7日

 体長は31mm。側面から眺めた時、頭部が坊主頭のように球形をしているのがユニークです。少し刺激を与えると尾部を左右に振るのはPapilio属の蛹などと同じですね。この後、自然状態と同じく来春羽化させるため屋外に蛹を放置することにしました。プラ容器から蛹を取り出し長方形プランターに移し替え、泥の代替品として短冊状新聞紙を敷詰め、ネットでプランター上部を被せて外敵侵入防御用としました。
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TG2@4.5mm、ISO=100、F2.8-1/125、-0.3EV、内蔵ストロボ、撮影月日:11月7日

 これを半日陰の場所に冬期間放置することにしました。果たして来春上手く羽化することができるのでしょうか?第1化の時期が全く不明なので、3月以降、こまめにネットを外して確認する必要があります。
 ヒメクロホウジャクの次は、できれば貴重種のスキバホウジャクにもトライしたいものです。
by fanseab | 2014-12-28 22:05 | | Comments(4)
Commented by himeoo27 at 2014-12-29 20:21
蛾は、成虫の生態だけでも多彩で
1種1種ビックリの連続です。
卵~幼虫~前蛹~蛹まで含めると
想像を絶する世界ですね!
Commented by fanseab at 2014-12-29 21:07 x
himeooさん、仰る通り、蛾の世界は魑魅魍魎と言うか、足を踏み入れると泥沼の世界ですので、小生は極限られた種のみ撮影対象にしております。スズメガ類は比較的親しみを覚えるので、今回飼育を試みてみました。食草の確保とか、蝶とは異なる知見が必要で苦労しますね。
Commented by Sippo5655 at 2014-12-29 21:51
なんかこの子に似た幼虫、見たことあるような、、

黒いしっぽは、何のため!?

先日、大きな葉っぱの中心に、

こんな形状の白っぽい幼虫が3匹くらいいました。

あれも、ホウジャクなのかなあ。

なんか、茶色のしっぽつけてました。
そのしっぽが、ねずみみたいだなあって。
Commented by fanseab at 2014-12-31 09:55 x
Sippo5655さん、スズメガ類の幼虫はフィールドで結構みかけますよね。しっぽ(尾角)は外敵を威嚇するためにあるのでしょうかね?この尾角の色と形(先端までまっすぐ伸びているか、曲がっているか)がスズメガ類幼虫の同定のヒントになります。
「ねずみみたいなしっぽ」が重要なヒントになるかもしれません。
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