探蝶逍遥記

同定の難しいPieris属第1化

 この4月上旬にコツバメ狙いで東京都下の谷戸に出かけた際、羽化したてと思われる1頭のシロチョウ♂に出会いました。斑紋の特徴からヤマトスジグロシロチョウ♂と判断しましたが、自信がないので、チョウ類保全協会でお世話になっている中村氏および矢後先生に確認依頼をしました。ご両人の判断をまとめると、「ヤマト♂である確度は高いが、最終的には発香鱗の検証が必要」でした。
 先ずは、問題となった個体の画像です。最初は丁度満開の梅林に止まったシーン。

+++横位置画像はクリックで拡大されます+++
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D71K-34、ISO=400、F11-1/640、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時36分

 吸蜜はしておりません。単に休止しているだけでした。清楚な白梅とのコラボは写欲をいたく刺激するものでした。この後、下草に舞い降りて暫し日光浴してくれました。
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D71K-34、ISO=200、F7.1-1/1600、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時38分
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D71K-34、ISO=200、F7.1-1/1250、-1.0EV、撮影時刻:10時40分

 一般にシロチョウ類は逆光で撮影すると映える・・・との通説がありますが、同じ逆光でも、アングルを変えると表情が一変します。このシロチョウの場合は完全逆光ではなく、反逆光が一番映えるのではないかなぁ~等と色々工夫しながら早春の陽だまりで撮影を楽しむことができました。第1化裏面後翅翅脈を彩る「筋黒」模様は本当に美しいと感じます。同じポイントで地面に舞い降りて吸水するスギタニルリ♂を観察することもできました。
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D71K-85VR(トリミング)、ISO=400、F11-1/500、-1.0EV、撮影時刻:11時11分

 実はこの谷戸でスギタニは初体験。お隣の谷戸では数年前に♀を観察したことがあり、この地域ではほぼ絶滅かな?と判断していただけにスギタニ♂との出会いは大変嬉しいものでした。

 さて、冒頭にも述べましたが、ご両人からお伺いしたヤマトスジグロシロチョウ(以下ヤマト)とスジグロシロチョウ(以下スジグロ)第1化の識別点をまとめます。下記識別点の諸点は、先に出版された「フィールドガイド」にも記載されておりますが、一部は管理人にとって初の知見も含まれておりました。

(1)発生時期
東京周辺の里山では、スジグロが発生するのは通常4月10日以降。4月上旬に発生していればヤマトの確率が高い。丁度神奈川ギフが飛び始める頃に出現するシロチョウは概ねヤマト(生息地は局地的)。
(2)生息環境
 どちらかと言えば、ヤマトの方がより明るい環境を好む。
(3)後翅裏面肩脈形状
 「フィールドガイド」p.91に記載されている春型識別に有用な形質。スジグロは肩脈が第8脈から前縁部へ湾曲して伸び、明瞭な「Jの字型」を形成する。一方、ヤマトは第8脈に埋没するか、僅かに黒色鱗粉が前縁側に盛り上がる程度で、不明瞭。
(4)後翅裏面の翅脈の太さ
 翅脈の太さはヤマト>スジグロ
(5)前翅裏面中室の性状
 ヤマトは前翅裏面の中室が基部のみ灰色、中室内の薄い2本の条線が不明瞭になる。スジグロは暗色鱗粉が基部から外縁側に拡がる個体が多く、2本の条線が明確になる。
(6)前翅の翅型
 ヤマトは前翅全体の尖りが弱く、外縁が辛うじて丸みを帯びる。

 もちろん、上記識別点には例外が含まれるので、「総合勘案して同定材料とすべき」とのことでした。ここで、管理人が先ず識別点として用いた(3)肩脈性状について、複数個体の撮影例をヤマト♂と思しき個体と比較して図示します(画像をクリックして拡大像をご覧下さい)。
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 スジグロ個体A~D(4月下旬撮影)と比較して「ヤマト」とした個体は肩脈がボンヤリとして第8脈に載る黒色鱗粉に埋没しております。因みに肩脈は第1化よりも盛夏に出現する個体:(4)で、より明確に確認できます。夏型では肩脈に黒色鱗粉が載らない分、肩脈の性状をより詳細に確認できます。本当はヤマト夏型の同様な画像を比較してみたいところですが、恥ずかしながら管理人のストック画像がありませんでした。更にこの比較画像から、スジグロ第8脈に載る黒色鱗粉は♀に比較して♂の方がより発達していることがわかります。そこで、問題としている「ヤマト♂」とした個体を再度検証すると、第8脈に載る黒色鱗粉の巾がスジグロ♂個体A,Bに比較して著しく発達し、後翅前縁にまで黒色鱗粉が載っているため、肩脈周辺の黄橙色地色面積も相当狭いものになっています。黒色鱗粉巾が過剰に発達すると、肩脈付近の黒色鱗粉と重なり、「Jの字型」の確認が困難となるでしょう。そこで、全般に後翅翅脈の黒色鱗粉が過剰に発達したスジグロ個体を「ヤマト」と誤認するケースもあるかもしれません。

 次に上記識別点の(5):前翅裏面中室内性状について、比較してみましょう。これは矢後先生からご指摘頂いた識別点です。
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 なるほど、スジグロでは明確な2本の条線が確認できます。一方、「ヤマト」とした画像は残念ながら半開翅状態で、ピントも甘いのですが、確かにスジグロに比較して条線の一つは不明確なようにも見えます。いずれにせよ、中室内条線については、もう少し個体変異が確認できる画像ストックがないと検証できない状態ですね。
 ヤマトにしろ、スジグロにしろ、同じ第1化でも♀の場合は表翅の黒色鱗粉の出方にかなり明確な差異があるので、判断がしやすいのですが、♂は相当難易度が高いように思います。管理人はこれまでヤマキマ/サトキマの斑紋検証で相当苦労した経験がありますが、Neope属に比較してPieris属第1化♂の同定は遥かに難しい印象を持ちました。
 なお、先に述べたヤマト/スジグロ同定の「最終兵器」である発香鱗についても触れておきましょう。つまり、

(7)実体顕微鏡レベルで発香鱗を超拡大観察すると、両種の鱗粉には明確な形状差異がある。また、匂いにも有意差があり、「日本産蝶類標準図鑑」によれば、『♂はスジグロで柑橘系に似た強いにおいがし、ヤマトではよりおだやかな香りがする』。

 残念ながら今回採取した画像を嗅いでも、匂いはしません(爆) その昔、管理人が幼い頃、ネットを振り回してスジグロを採集すると、先ずは柑橘臭を楽しんでおりました。健全な児童が行う一種のシンナー遊びでしょうか? その頃、もう少し鋭敏な観察眼があれば、「おかしいな?このスジグロはあまり匂いがしないぞ?」とエゾスジグロの存在(当時ヤマトはエゾから種分離されていない状態)にボンヤリと気が付いていたかもしれません。残念ながら至極凡庸な昆虫少年だった管理人は、ただただひたすら匂いを嗅ぐ「禁じられた遊び」を繰り返して楽しむだけでした(^^; 一度、機会があれば、ネットを振ってヤマトスジグロを捕まえ、スジグロとの柑橘臭比較をしてみたいものです。
by fanseab | 2014-04-30 21:04 | | Comments(6)
Commented at 2014-04-30 22:19
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by banyan10 at 2014-04-30 22:23
ヤマトスジグロは僕は自信ないのですが、こんな記事もあります。
http://sun.ap.teacup.com/hemulenjikeidai/180.html
以外とそれほど標高が高くない場所でも分布しているのかもしれません。
詳しい人でも写真だけでは確実には分からないケースが多いのですかね。
Commented by fanseab at 2014-05-02 00:18 x
鍵コメさん、ネットを振って、蝶を捕まえてみなければ分からない違いって、色々ありますね。スジグロ類の匂いもそうです。カメラもネットも両方使うのは骨が折れるし、色々と誤解されるご時世ですから、余計難しくなったりしますけどね。
ヤマトについては、夏場にもできれば確認したいと思って少し粘ってみたいと思います。
Commented by fanseab at 2014-05-02 00:22 x
BANYANさん、記事のご案内有難うございます。
小生の撮影地も低標高地ですが、過去にウラキンの採集記録もあって、低標高の割には山地の特徴を有している谷戸地形です。恐らくここは混棲地だと思われるので、4月中旬頃はヤマトの終期とスジグロの発生初期が重なり、観察が煩雑になりやすいですね。そう思って、わざわざ下旬に確実に「スジグロ」と言える個体撮影目的に現地に向かった経緯があります。
Commented by yoda-1 at 2014-05-03 04:10
最初の個体はヤマトの方で間違いないと思います。
採集しなくても分かる同定ポイントを最近見いだしました。
夏型の出現で是非確認してみてください。
肩脈の暗色鱗粉への埋もれ具合ですが、西日本では明快に両種で分かれるのですが、関東に来るとかなり不明快になるように思います。
banyanさん紹介のブログの方は、秩父のtef-teffさんのお友達かな?
Commented by fanseab at 2014-05-03 21:11 x
yoda-1さん、同定確認コメント有難うございます。
同定ポイント記事、早めにアップして下さいな(笑)
肩脈付近黒色鱗粉の載り具合の個体変異がどれほどあるのか?もう少し観察しないとわかりませんが、
なにせ、年一回こっきりなので、結構撮影チャンスがありませんね。夏型の撮影も課題として計画しておきます。
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