探蝶逍遥記

ヒメシジミの産卵行動(6月下旬)

 昨年10月下旬に山梨でPlebejus属2種(subsolanusargyrognomon)の越冬卵撮影に成功いたしました。こうなると、「ブルー3兄弟」の残りのargus卵も撮影したくなるのは人情で、機会を伺っておりました。ところが中央道・笹子トンネルの痛ましい事故等があって、山梨に行くチャンスを失ってしまいました。もっとも本属3種の中でargusは、
①食草がキク科、シソ科、マメ科等ムチャ多岐に渡る。
②食草以外の枯れ茎・枯葉や小石等にも産卵される。
等から冬場に探索しても恐らく相当労多く厳しいだろう・・・。やはり母蝶が産卵する現場を押さえる「現行犯逮捕(?)」を狙うべきだと思い、今回の遠征になりました。現地には9時45分着。予想していた通り、♂♀共そろそろ終盤戦の様子。でもこの日は開翅撮影を狙うのではないので、鮮度はそれほど気にしなくて良いので気楽です。それでも羽化直に近い♀個体の吸蜜を観察していると、あっという間に♂が絡んで交尾成立です。

++横位置画像をクリックすると拡大画像を見ることができます++
f0090680_2038354.jpg
D71K-85VR、ISO=500、F9-1/1000、-1.0EV、撮影時刻:10時20分

 ヒメシジミの交尾シーンはヤマトシジミよりも意外と高い確率で観察できる気がします。午前中、気温の上昇と共に♂は探♀飛翔に専念する一方、♀は不活発で基本吸蜜と日光浴を繰り返して時間を過ごすパターン。♀の行動にさしたる変化がないので、念のため産卵状況の確認を行いました。このポイントにはargusの食草とされるヨモギ、アザミ類が生えていますが、先ずはヨモギに絞って根際をチェックしていきます。最初に確認した株で何と、「一発ツモ(爆)」。株高55cmの茎上、地上高14cmに1卵産み付けられておりました。
f0090680_20392363.jpg
GXR@5.1mm、ISO=200、F6.5-1/100、-0.7EV、撮影時刻:11時02分

 中央部が凹んでいるため、肉眼ではその部分が暗く見えます。早速超拡大システムでも撮影。
f0090680_20394889.jpg
D71K-85VR-24R(トリミング+上段5コマ/下段9コマ深度合成処理)、ISO=100、F29-1/400、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時56分

 直径は0.86mm。上辺が潰れた饅頭型で、精孔周辺はレース模様、側壁部分は金平糖のような趣きです。昨年秋に撮影したsubsolanus越冬卵と比較もしてみました。
f0090680_20552225.jpg
上段:D71K-85VR-24R(トリミング+5コマ深度合成処理)、ISO=100、F29-1/400、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時56分
下段D7K-85VR-24R(トリミング+2コマ深度合成処理)、ISO=100、F29-1/320、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時07分

 卵の直径はほぼ同等。しかし構造差は明らかで、subsolanusは精孔周辺のレース模様が粗く、側壁構造もよりゴツゴツした印象です。もちろん肉眼では両者の差を見分けることはできません。ですので、両種が混棲するポイントで越冬卵を探すときは混乱するかもしれませんね。拡大撮影した卵以外の株を探すと都合2株から3卵を見出すことができました。最初は株高84cm、地上高79cmから発見した卵。
f0090680_2041886.jpg
D71K-85VR(トリミング)、ISO=100、F11-1/400、-1.3EV、外部ストロボ、撮影時刻:11時23分

 これは既に寄生されておりました。残りの2卵は根際で、こちらは地上高7cmの葉柄部近傍に産み付けられておりました(下記画像では1卵のみ写っています)。
f0090680_20412781.jpg
GXR@5.1mm、ISO=200、F6.5-1/125、-0.7EV、内蔵ストロボ、撮影時刻:11時53分

 以上の産卵状況から根際に潜り込んで産むケースが多いはずで、「これは葉被り必死の撮影になるだろう」とちょっと心配になりました。さて、正午を過ぎ、♀の挙動を改めて注視しておりましたが、特段の変化はありません。吸蜜→開翅日光浴→吸蜜のパターンが繰り返されます。綺麗な♀がいたので、つい開翅吸蜜シーンを撮影。
f0090680_20432219.jpg
D71K-85VR、ISO=400、F6.3-1/800、-1.3EV、外部ストロボ、撮影時刻:12時33分

 13時を過ぎた頃、少し♀の活動が活発化してきました。それまでの飛翔速度とは比較にならない位早く飛んで谷筋付近に降りたり、また草地に上がったり落ち着かない様子です。そのうち1頭の♀に注目し、この子と心中するつもりで行動を追跡してみることに。ヨモギの葉に舞い降りた♀が半開翅して静止しましたが、暫く経過してから左右触覚を上下にゆらゆら揺らし始めました。
f0090680_20435350.jpg
D71K-85VR、ISO=400、F11-1/400、-1.3EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時07分

 そしてヒョイと隣の株に飛んで葉の中に飛び込み、茎を伝い降り始めました。待望の産卵行動らしき挙動です!
f0090680_2044725.jpg
D71K-85VR(トリミング)、ISO=400、F11-1/400、-1.3EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時21分26秒

 以前ご紹介したミドリシジミ♀同様、赤い産卵器官を剥き出しにしたまま、腹端を付き出した姿勢で降下していきます。そのうち、茎と葉柄部の隙間に産卵しました!
f0090680_20444816.jpg
D71K-85VR、ISO=400、F11-1/400、-1.3EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時21分37秒

 しかし、産卵行動終了後、当該部位をチェックしてみたものの、卵は見出せず。恐らく産卵姿勢は取ったけれど、気に入らなくて結局産卵しなかった模様。産卵が終了すると、茂みの中で開翅休息するか、丈の低いシロツメクサ等で吸蜜し、休息が終わると再度チラチラとヨモギ群落の上を舞い、上部の葉に止まった後、茎を伝って降下する・・・。このパターンを繰り返しておりました。このポイントはヨモギ群落がパッチ状に分布していて、注目した♀個体は凡そ1.5mX2m程のパッチ群落の中で複数回産卵している状態でした。ある程度産卵パターンが読めてきたので、その後粘って正真正銘の「産卵シーン」撮影に成功!
f0090680_20454795.jpg
D71K-85VR、ISO=400、F11-1/400、-1.3EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時30分26秒

 産卵直後の卵の様子です。
f0090680_20455969.jpg
D71K-85VR(トリミング)、ISO=400、F11-1/400、-1.3EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時34分

 卵は茎と葉柄(托葉)の隙間に産まれていて、撮影のため、葉柄部を除去しております。このように拡大するとはっきりしませんが、肉眼では淡い緑色を呈していてとても綺麗です。念のため超拡大システムでも撮影。
f0090680_2165691.jpg
D71K-85VR-24R(トリミング+5コマ深度合成処理)、ISO=100、F29-1/400、-1.0EV、外部ストロボ、撮影時刻:14時01分

 前回のミドリシジミ撮影で産卵後短時間で卵が変色する経験をしているので、慌てて撮影しましたが、本種の場合は15分程度の時間経過では変色しないようです。最初にご紹介した拡大像と比較すると、やはりゴミの付着していない産みたての表面構造は綺麗です。細かい彫刻が施された上質な翡翠細工を思わせますね。
 蒸し暑い天候の下、ヨモギ群落の脇に座り込むこと約3時間。熱中症の心配をしながらも何とか産卵行動に至る経緯を含め♀の行動パターンを知ることができて、実り多い遠征になりました。できれば涼しくなる秋口に再度この地を訪問し、群落全体としての産卵状況調査をしてみたいと思います。
by fanseab | 2013-07-01 20:53 | | Comments(6)
Commented by naoggio at 2013-07-04 16:46 x
ヒメシジミ産卵と卵の撮影おめでとうございます。
最後の1枚はきれいな写真ですね。
アサマシジミの卵と比べてみてもヒメの名に恥じない繊細な網目模様が素敵です。
Commented by yoda-1 at 2013-07-04 19:23
3種の卵比較では、やはりアサマの独自性が目立つような気がしました。
アサマとヒメシジミに関しては、まだ卵自体を見たことがないので、遠い出来事のように感じてしまいましたが、YODAもいつかはヨモギ・一発つもの幸運に恵まれたいです。
しかし、ミヤマシジミだけが多化性になったのも、なんとも面白い気がします。
ヒメシジミもヨモギであれば、多化になれそうなものを・・・。
Commented by fanseab at 2013-07-04 22:38 x
naoggioさん、お蔭様で狙って♀産卵撮影ができました。産卵部位が丈の低い位置ですが、逆に手持ちで撮影する場合、カメラが安定するメリットがあるので、ゼフ越冬卵より、むしろ拡大撮影がやりやすいですね。ヒメシジミ族は全般に正面から見た時の網目構造に種の特徴が出るようです。とても綺麗で他種との比較も楽しみなのです。
Commented by fanseab at 2013-07-04 22:43 x
yoda-1さん、アサマについてはできれば照明方法を統一して再度撮り直しをしてみたいと思っております。ブルー3兄弟の中では初夏~夏場のミヤマシジミが一番産卵行動および卵の発見が楽だと思います。ミヤマも秋口の最終化ではコマツナギの根元に産むので撮影が困難になりそうです。
また、この属は本来ヨーロッパ等の寒冷地に分布の中心があるので、年1化が基本で、ミヤマは特別に進化して温暖な日本で多化性を獲得したのではないか?などと勝手な想像をしております。
Commented by thecla at 2013-07-06 21:08 x
ヒメシジミ産卵シーン撮影おめでとうございます。
食草の茎の根元にもぐりこんで産卵する蝶の撮影は難しいですよね。産みたて卵は色紋様とも魅力的です。
Commented by fanseab at 2013-07-07 20:47 x
theclaさん、コメント有難うございます。
越冬卵の撮影が困難だろうと思って産卵シーンから探し出す作戦を取りましたが、産卵位置がわかってしまえば、冬場でもそれほど苦労しないかもしれません。茎に潜り込むなかでは普通種のヒメウラナミジャノメの産卵シーンが難易度高いですね。肉眼でも時として潜り込んだ位置が見えなくなりますから。どんな越冬卵でも産みたては構造が良くわかって大変綺麗ですね。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード