探蝶逍遥記

続・房総半島のヤマキマダラヒカゲ(4月下旬)

 昨年、首題ヒカゲに初めて挑戦し、何とか成果(外部リンクを得ることができました。同時に課題も生まれ、春型については、①新鮮な♂撮影、②♀の撮影、③♀産卵シーン撮影の3点が重点課題になっておりました。今回はこれら3点のクリアを目標に掲げ、現地を訪れました。昨年5月に初めて見出したスダジイ樹液ポイント(ポイントAと呼称)、および8月に再訪し、新たに見出した雑木林ポイント(ポイントB)の二箇所を中心に新規ポイントの開拓も行ってきました。正午前、最初に夏型の個体数が多かったBポイントに直行。しかし、1頭も姿がありません。おかしいなと思い少し捜索範囲を拡げてやっとのことでボロのヤマキマ♂を発見。時期が少し遅いかと思いましたが、混棲するサトキマも見かけないので(房総の混棲地では春型はヤマキマに遅れてサトキマが出現する)、たまたま早く出現した♂個体の様子。仕方なく、Aポイントに戻ってみると、ここには昨年同様、多数の個体が樹液に群れておりました。しかし、メインの樹液ポイントが高い場所にあって、トリミングしてもこんな有様。

++横位置画像をクリックすると拡大画像を見ることができます++
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D71K-34(トリミング)、ISO=640、F7.1-1/500、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時26分

 5頭吸蜜している中で、少なくとも3頭はヤマキマのようです。それでも観察を続けると、低い位置に降りて来てくれる個体も増えて助かりました。比較的のっそりとした挙動の個体がメダケに止まっており、先ずはパチリ。
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D71K-34、ISO=200、F8-1/250、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:12時00分

 前翅外縁の形状等、総合的に勘案してヤマキマ♀のようです。左前後翅の損傷を除けばまずまずの鮮度です。これで取敢えず課題の②はクリア。反対に♂は鮮度良好な個体が見出せません。平均的にはこんな状態。
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D71K-34、ISO=400、F9-1/500、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:12時48分

 こうして、逆光で透かしてみると、前翅中央部は黒く透過光が遮られており、♂性標の存在がわかります。お次は傾斜日光浴する♂。
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D71K-34、ISO=400、F9-1/500、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時39分

 この個体は鮮度が申し分なかったのですが、このような傾斜日光浴態勢だと、全貌が表現できません。フラフラと飛び立った個体が丁度咲き誇っていたフジの花弁に止まりました。こりゃ吸蜜かぁ!と慌てて駆け寄って撮影。
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D71K-34、ISO=200、F11-1/200、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:14時55分

 残念ながらただ静止しているだけでした。でも、いかにも春型らしい絵になりました。Aポイントから再度Bポイントに向かい、更に林道を奥に進むと、コナラの疎林が出現し、いい感じのポイント(Cポイントと呼称)であると直感。すぐに樹液が出ているコナラを発見し、覗いてみるとNeopeが吸汁しておりました。
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D71K-34、ISO=200、F10-1/400、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:14時19分

 ヤマキマであることに間違いはなく、問題は性別。Neopeの♂♀判定を裏面から判断するのは結構骨が折れます。この絵のように前翅外縁側の全貌が隠されて判断材料がない場合は特に同定に苦慮します。ここでは後翅の眼状紋列と後翅外縁部の相対的な距離が遠いこと、複眼と翅のバランスを総合的に勘案して♀と判断しました。縁毛もバッチリで新鮮な個体です(^^) 縦広角でも撮ってみました。
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GXR@5.1mm、ISO=100、F6.5-1/80、-0.7EV、内蔵ストロボ、撮影時刻:14時37分

 この個体が吸汁している同じコナラの株で、70cmほど離れた樹液酒場にもう1頭のNeopeが吸汁しておりました。
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D71K-34、ISO=200、F10-1/200、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:14時42分

 こちらは超新鮮なサトキマの♂で、「なるほど、ヤマキマの後にサトキマが出現するのだなぁ」と実感させる絵になりました。飛翔も撮影しました。しかし、下草に留まっている個体を飛ばして撮れるBポイントと異なり、Aポイントでは探♀飛翔で高速に飛ぶ個体を追跡せねばならず、歩留りは最低でした。何とか撮れたのがこちら。
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D7K-20(トリミング)、ISO=400、F14-1/400、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:15時09分

 前翅斑紋から♀であることには間違いないですが、この絵から直ちにヤマキマかサトキマかの判断はできません。ただ、この日のNeope属発生状況を考慮して、ヤマキマ♀の可能性が高いと思います。この日、AポイントからCポイントまで数往復する探索を続けました。しかし、Bポイントではただの1頭もNeopeを見かけず、恐らく春型と夏型で中心となる活動場所を棲み分けているのでしょう。8月下旬~9月にかけて発生する夏型は暑さを避けてBポイントのように暗い雑木林の下草付近に潜む生活を好むのだと思います。一方、昨年・今年と2年続けての観察で春型は殆どの時間を樹液吸蜜に費やしているのではないかと思われるほど、樹液に執着しているように思えました。
 さて、♀の産卵です。房総ヤマキマの権威・高橋真弓先生の原著論文(※)では、屋外ケージ内での観察の結果、「春型では午前中から午後にわたり、午前10時ごろと午後3時ころに小ピークがあると思われた」との記載があります。実はこの日、この時間帯を意識して遠征したのですが、ゴールデンウイーク前半の好天日ともあってアクアラインの入口・出口付近でとんでもない渋滞に巻き込まれ、到着がほぼ正午になってしまいました。そこで午後4時まで粘って、夕刻のチャンスを待ちましたが、結局、産卵挙動を示す♀には出会えず、ガッカリして撤収したのでした。
 今回の課題に対して、②♀の撮影はクリアできましたが、①新鮮な♂個体静止画像の撮影、③産卵シーン撮影の二点は宿題事項として残りました。こちらは再度5月上旬にトライすることにしました。<次回に続く>

高橋真弓・青山潤三、1989、房総半島産ヤマキマダラヒカゲについて(Ⅲ)、蝶と蛾 40(2), 117-131.(外部リンク)
by fanseab | 2013-05-10 22:07 | | Comments(8)
Commented by yoda-1 at 2013-05-11 08:10
緻密な観察記録、大変勉強になりました。
途中の雌雄判断、最後のヤマキマ♀雌の判断はその通りに感じました。
前翅第1B室の明色班内の暗色班の有無で、サト・ヤマを判断してはいけない事例ですよね。
他の部分では、これはもうヤマキマであることで間違いないと思いました。
Commented by thecla at 2013-05-11 17:55 x
大変、勉強になりました。
房総のヤマキマ、気にはなっているものの、ついこの時期信州方面へ出かけてしまっています。
でも行く時には、貴ブログで再勉強していけばばっちりですね。
Commented by himeoo27 at 2013-05-11 21:02
環境も撮りこんだ下から3コマ目の吸汁シーン
素敵ですね!
Commented by fanseab at 2013-05-11 22:18 x
yoda-1さん、雌雄判定はまだまだ確信が持てる部分がなく、苦戦しております。貴殿のコメントには勇気づけられますね。最後の♀飛翔画像の1b室の黒点の有無は特に房総産ヤマキマでは判定材料に使えないと思います。
Commented by fanseab at 2013-05-11 22:23 x
theclaさん、こちらもイエローバンド狙いで白馬山麓に行きたい願望はありますが、この時期、どうしても中央高速の渋滞が嫌で回避してしまいます。今回はアクララインで初体験の渋滞を経験しましたが、それでも中央高速の上野原近辺の渋滞に比較すれば赤ちゃんみたいなもので、我慢できるレベルでした。春型のヤマキマはGW以前の4月中旬から発生していて、遅い個体は5月中旬頃まで見れますから、どうしても観察したい場合は、GWを外せば良いのです。ただ後半戦はサトキマの勢いが増すので、判定に迷う場面が出てくるでしょうね。
Commented by fanseab at 2013-05-11 22:25 x
himeooさん、広角で環境を写し込むのは、マクロできちんと押さえた後、余裕が無いと撮れないことが多いですね。今回は樹液にオオスズメバチもいないし、ヤマキマも逃げる気配も無く吸汁していたので、助かりました。ただ、本音を言えば、ライティング不良の失敗作でして、反省している絵なのですよ。
Commented by ainomidori443zeph at 2013-05-11 23:59
もうヤマキマが出ているんだと感心しながら拝読させていただいていると、藤の花に止まっているではありませんか!びっくりしました。吸蜜ではなかったのですね。ある意味ホッとしました。
Commented by fanseab at 2013-05-12 22:09 x
愛野緑さん、Neope属は稀に訪花・吸蜜することが知られています。小生も多摩川縁でサトキマの吸蜜を観察しておりますし、今回もNeopeのハルジオン吸蜜を観察しております(残念ながら撮影に失敗)。房総ヤマキマの場合は春型がミツバウツギとハルジオンで吸蜜した事例が報告されております。
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