探蝶逍遥記

ボルネオ・グヌンムル公園遠征記(5)アゲハチョウ科その4:カギバアゲハ

 グヌンムル遠征での最大のサプライズは今回ご紹介するカギバアゲハ(Meandrusa payeni brunei)との出会いでした。滞在3日目の3月11日。この日の午後はいつもと違うルートを探索してみようと思い、Papilioが吸蜜しそうな木本の前で待機しておりました。すると、突然茶色の大型蝶が出現。最初はチャイロフタオ(Charaxes bernardus)か、チャイロタテハ(Vindula sp.)かと思いましたが、両タテハが吸蜜に来るはずはありません。「ひょっとして・・・」と思ってファインダーを覗いた途端、体中からアドレナリンが猛烈に湧きだしました。「うひゃ~、カギバだぁ!」図鑑で夢見ていたカギバが突然出現し、その後は完全に興奮状態でシャッター押しまくり状況が続きました。丁度、10年前に初めてアカエリに出会った時と同じ状況。後から冷静に検討すると、シャッター速度が遅すぎで、とても納得できる画像にはなっておりませんでした。その最初の記念すべきファーストショットがこちら。♀でした。                                                                                               ++画像はクリックで拡大されます++
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D7K-34、ISO=400、F10-1/400、-1.0EV、外部ストロボ、撮影年月日・時刻:2012年3月11日、13時36分

 最初は葉影越しに狙う感じでどうにも全景が得られません。ようやく全貌を捉えたのは出現してから3分後でした。
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D7K-34、ISO=400、F10-1/400、-1.0EV、外部ストロボ、撮影年月日・時刻:2012年3月11日、13時39分

 右後翅が破損して尾状突起が欠損しております。それにしても、いかにも♀といった風情の太い腹が目立ちます。それと体色もご覧のように褐色なので、ストローが黒いことも強調されますね。黒系アゲハでは普段、ストローの色なんてあまり気にしませんが、このアゲハは黒いことで力強さを感じさせてくれます。この直後、何とか背景が綺麗に抜けたショットが撮れました。
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D7K-34(トリミング)、ISO=400、F10-1/400、-1.0EV、外部ストロボ、撮影年月日・時刻:2012年3月11日、13時39分

 かなりピンボケ画像ですが、このアゲハの特徴である鋭く尖った前翅端の形状がはっきりわかる絵になりました。♀の撮影途中、実はもう1頭が吸蜜にやって来たことに気が付きました。2兎を追ってはいけない・・・と思いながら、やはり気になって、こちらも追跡。少し雰囲気が違うなと思ったらこちらはなんと♂でした。
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D7K-34、ISO=400、F10-1/320、-0.7EV、外部ストロボ、撮影年月日・時刻:2012年3月11日、13時38分

 こちらもピンボケ(^^; ♂は♀に比較して遥かに地色が濃く、翅の面積も♀よりも一回り小さいため、後翅尾状突起の長さも♀に比較して相対的に長いのです。そのうち、この♂は例によって先に吸蜜に来ていた♀にアタックし始めました。
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D7K-34、ISO=400、F10-1/500、-0.3EV、外部ストロボ、撮影年月日・時刻:2012年3月11日、13時42分

 茂みの中でフォーカスを合焦させ難く、ご覧のように♂はピンボケ(^^; それでも何とか♂♀個体の斑紋差異が理解できる画像になりました。♀が出現してから約6分後、両個体はほぼ同時に吸蜜を止め、林内に消えていきました。冷静に考えると6分間も撮影のチャンスがあったにも関わらず、途中で設定条件を見直す精神的余裕も全く無く、殆どが没画像でした。過去2年間、このような吸蜜場面を確実にゲットするため、国内のアゲハ吸蜜シーンに拘って練習してきたのに、嗚呼、情けないことに「本番」でミスってしまいました。これも悲しいかな実力の無さですね。

 カギバアゲハについては、故五十嵐邁氏がその生活史を解明されたことでも有名です。既にテングアゲハ、シボリアゲハの2大珍品の生活史を解明された同氏をもってしても、なかなか正体を見せなかった曲者のアゲハなのです。そんなカギバもマレーシア・キャメロンハイランドでついに同氏により♀産卵現場の確認→生活史の解明に至った経緯はゾクゾクするほど素晴らしい記録です。管理人もこの記録文を何回読み直したことでしょう。その報文はこちら

 またネットで調べてもカギバの生態画像は海野和男氏が撮影した♂吸水シーン程度しかなく、今回管理人が撮影した♂♀吸蜜シーンおよび求愛シーンはネット上では恐らく世界初公開なのかもしれません。また管理人が尊敬して止まないボルネオの蝶研究家・故大塚一壽氏の著作:「A field Guide to the Butterflies of Borneo and South East Asia」においても、p59に紹介されている♂吸水画像は相当遠距離から撮影されたと思われる不鮮明な画像で、長年ボルネオに滞在された同氏でも撮影は相当困難な種類と想像されました。こんな経緯もあって、今回曲がりなりにも♂♀の同時撮影に成功できたのは本当に運が良かったと思っております。他の蝶でもそうですが、熱帯アジアの蝶は同じ時期に同じ場所を訪問しても目的の蝶に出会えないことが一般的です。珍品はもちろん、普通種でも状況は同じです。ですから、「次回はカギバ♂の吸水場面を撮影したい・・・」と目標を掲げても今後撮影できない可能性が高いのです。遠征前はとにかくアカエリをきちんと撮ること。それとカルナルリモンも撮れればいいなぁ~とおぼろげな目標を掲げており、カギバは全く想定外でした。そんな無欲な状況でよく珍品が出現するのかもしれません。「撮ってやるぞー」と気合を入れると殺気が伝わって出会いも叶わないのでしょうね。そんなこんなで、カギバを撮影できたことは今回遠征最大の成果だったと思います。これでアゲハチョウ科はお終い。最後に目撃・撮影できたアゲハチョウ科リスト全11種(幼虫も含む)をアップしておきましょう。


<アゲハチョウ科目撃・撮影種リスト(黄色字は目撃種)>
(1) アカエリトリバネアゲハ(Trogonoptera brookiana brookiana)♂
(2) キシタアゲハの仲間(Troides sp.)♂
(3) ムラサキマネシアゲハ(Chilasa paradoxa telesicles)幼虫
(4) シロオビモンキアゲハ(Papilio nephelus albolineatus)♂
(5) モンキアゲハ(P. helenus enganius)♂
(6) ナガサキアゲハ(P. memnon memnon)♂
(7) カギバアゲハ(Meandrusa payeni brunei)♂♀
(8) アオスジアゲハ(Graphium sarpedon sarpedon)
(9) オナガタイマイ(G. antiphates itamputi)
(10) デレッセルトマダラタイマイ(G. delesserti delesserti)♂
(11) アオスソビキアゲハ(Lamproptera meges meges)♂

 次回はシロチョウ科のご紹介です。
<次回に続く>
by fanseab | 2013-01-04 00:30 | | Comments(12)
Commented by 22wn3288 at 2013-01-04 09:44 x
カギバアゲハ 貴重な写真ですね。
五十嵐氏の報文も読みました。
素晴らしいですね。
Commented by khaoyai_m2 at 2013-01-04 20:58
すごいですね。
言葉になりません。
おめでとうございます!
Commented at 2013-01-04 21:00
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by fanseab at 2013-01-04 21:49 x
22wn3288さん、コメント有難うございます。
ラッキーなことに撮影できました。ただ撮ったら
撮ったで、画像の質が悪いなぁ~と反省しきりです。五十嵐さんが苦労して生活史を解明されましたが、生活史が明らかになったからといって、このアゲハの撮影難易度が易しくなった訳ではありません。それにしても♀が産卵した高木を森林局と交渉し、樵に切らせて調べる情熱というか、根性には感心させられますね。
Commented by fanseab at 2013-01-04 21:52 x
カオヤイさん、コメント有難うございます。
このアゲハは東南アジアに広く分布していますが、神出鬼没の性格があって、狙って撮影するのが容易ではないですね。普通はヒルトッピングで尾根筋に飛んで来るのを採集するらしいのですが、撮影となるとそのパターンでも難しいかもしれません。とにかく今回はラッキーでした。
Commented by fanseab at 2013-01-04 21:52 x
鍵コメさん、御指示通りにいたしました。
Commented by ze_ph at 2013-01-05 00:49 x
明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いいたします。
先日の蝶類学会でも少し拝見させていただきましたが、やっぱりこのカギバの写真は凄過ぎです……。
Commented by himeoo27 at 2013-01-05 08:58
自分自身が「カギバアゲハ」を探し当てて撮影しているように
ワクワクしながら画像を見、文章を読みました。
厳しい条件の中、3コマ目、5コマ目の写真素敵ですね!
Commented by naoggio at 2013-01-05 13:55 x
体調不良で新年のご挨拶が遅れました事お詫び申し上げます。
改めまして
明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

カギバアゲハ、中学時代に入手したインド産の標本(属名がDabasaでした)を眺めてはため息をついていた憧れの蝶ですねえ。生態写真を見たのは海野さんのサイト以外では初めてです。やはり生きている蝶は素晴らしいです。
↓のジャノメスミナガシも凄過ぎて言葉がありません。
今年も素晴らしい写真を期待しております。
Commented by fanseab at 2013-01-05 20:19 x
ze_phさん、明けましておめでとうございます。
昨年暮れは色々と貴重なお話しを聞かせて頂き有難うございました。このような珍品は想定外でしたので、認識するのにやや時間がかかりました。やはり冷静に撮影できない相手でしたね(^^; 貴殿には是非クロカギバあたりの広角飛翔画像を期待いたします。本年もよろしくお願いします。
Commented by fanseab at 2013-01-05 20:21 x
himeooさん、居るはずだ・・・と確信して探索する場合と異なり、思ってもいない相手が出現すると、全く動転して撮影ができないものですね。3コマ目がもう少しピンが良ければ御の字でしたが、そうは問屋が卸しませんでした。
Commented by fanseab at 2013-01-05 20:24 x
naoggioさん、明けましておめでとうございます。体調崩された由、貴ブログで知りましたが大変でしたね!無理せずにご自愛下さい。
そうですか?中学時代に既に標本をご覧になっておりましたかぁ。標本で見ると意外に小さい感じがしますが、実物は大変大きく見えました。大物はやはり実体よりもデカく感じるようです。
本年もよろしくお願いします。
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