探蝶逍遥記

ボルネオ・グヌンムル公園遠征記(4)アゲハチョウ科その3:GraphiumとChilasa

 管理人が訪問した3月10日前後はボルネオ・サラワク州では雨季(北東モンスーン)の終盤。午前中は比較的晴天が期待できますが、正午前から確実に曇り始め、午後一杯は雨。全く撮影ができません。そこで貴重な午前中の使い方が鍵になります。アゲハ類では先ずはGraphium属に期待して渓流沿いを巡りますが、この仲間が吸水に訪問しそうな環境が意外と見出せません。キナバル国立公園では深い渓谷脇に砂場が配置されている好適な環境があったのに・・・・。ちと残念。ミカドによく似たバチクレスタイマイ(Graphium bathycles bathycloides)は目撃すらできず撃沈。アオスジ(G. sarpedon sarpedon)とオナガタイマイ(G. antiphates itamputi)は目撃するも撮影できず。しかし、滞在終盤戦になって、ようやく女神が舞い降りてきました。アカエリの集団を追って、遊歩道に入った時、白いアゲハがフワリと林内に出現、やがて遊歩道で吸水を始めました。管理人初体験のデレッセルトマダラタイマイ(別名:ウスアオマダラタイマイ、G.delesserti delesserti)♂でした。                                                                                                                            ++横位置画像はクリックで拡大されます++
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D7K-34、ISO=400、F9-1/320、-0.7EV、外部ストロボ、撮影年月日・時刻:2012年3月11日、11時48分

 ご覧の通り、このアゲハはオオゴマダラもしくはヒメゴマダラに擬態しております。♂はどうしてもアゲハの飛び方に近いのですぐに擬態がバレますが、♀は緩やかな舞で騙されるのだそうです。一度♀に会いたくなってしまいます。

 公園事務所から以前ご紹介したコウモリ観察所までの遊歩道は様々な林縁環境が登場し、撮影には重宝します。途中、左手に明らかにアゲハと思しき幼虫を発見。丈の低い灌木に付いておりました。
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GXR@5.1mm、ISO=200、F3.6-1/160、-0.7EV、撮影年月日・時刻:2012年3月11日、14時26分

 管理人の指先との比較です。体長は35mmほど。
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GXR@5.1mm、ISO=100、F9.1-1/40、-0.7EV、内蔵ストロボ、撮影年月日・時刻:2012年3月12日、10時37分

 マクロで背面と側面を比較接写。
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D7K/D90-85VR(トリミング+画像合成)、ISO=400、F8~11-1/160~250、-0.7~-1.0EV、外部ストロボ、撮影年月日・時刻:2012年3月11日、14時25分および3月12日、10時36分

 帰国後、早速同定調査を開始。恐らくChilasa属幼虫だろうと判断し、ネットで捜索するも少なくともスラテリマネシアゲハ(C. slateri hewitsoni)ではなさそうです。その後のネット捜索でやや類似した幼虫を発見。ムラサキマネシアゲハ(C. paradoxa telesicles)の亜終齢幼虫画像(※)に近似しておりました

※T. Yamamoto,O.Yata and T.Itioka 2000. Descriptions of the Early Stages of Chilasa paradoxa(Zinken, 1831) from Northern Borneo(Lepidoptera: Papilionidae). Entomological Sicence, 3(4):627-633.

 ネット上公開画像は残念ながらpdfファイルであり、色彩・斑紋の詳細が読み取れないので、思い切って原著者のお一人である、京大・市岡准教授に私信を出して画像の同定をお願いいたしました。准教授は共著者の九大・矢田先生にも画像を転送して頂き、矢田先生より、

『(中略)・・・送られてきた幼虫の写真はいずれもparadoxaの 3,4齢幼虫とほぼ一致します。論文の中でparadoxaのユニークな特徴としてあげた幼虫の頭部がオレンジ色となる点、肉質突起の先端が青色となる点の他、幼虫の斑紋パターンも私たちの論文の写真とほぼ完全に一致します。 ・・・(中略)従いまして、ご依頼の写真の幼虫はいずれもChilasa paradoxaの3,4齢幼虫であろうと判断できます。』

とのお墨付きを頂きました。paradoxa♂とは過去のボルネオ遠征で2回共出会っており、今回、幸運にも幼虫にも出会うことができたのは、何かこの種との相性というか、運命のような感じさえ覚えます。市岡先生の上記論文によると、同じサラワク州のLambir Hills National Parkで6月中旬に♀の産卵を確認したとされています。この時の産卵木はクスノキ科のAlseodaphne canescensで、今回、管理人が見出した発生木と比較してやや葉形状が異なるようです。ただ恐らく同じクスノキ科であることは間違いないのでしょう。幼虫の発育状況から恐らくここグヌンムルでも♂は4月中旬~5月頃には舞っていると思われます。最後にparadoxa幼虫の同定に関してお世話になりました京大・市岡先生、九大・矢田先生にはこの場を借りまして再度厚く御礼申し上げます。次回はアゲハチョウ科の最終回です。
<次回に続く>
by fanseab | 2012-12-26 21:12 | | Comments(6)
Commented by dragonbutter at 2012-12-26 23:40
遠征記事を楽しく拝見しております。
ムラサキマネシアゲハの成虫も見せていただきましたが、実に巧妙な擬態ですね。
さすがに幼虫まで真似することはできなかったのでしょうが、それでも三毛猫のようでかわいいですね。
Commented by 22wn3288 at 2012-12-27 08:47
ゴマダラに良く似たアゲハですね。
自然の妙を感じます。
始めて見るチョウはわくわくするしょうね。
Commented by OTTO at 2012-12-27 20:19 x
マネシアゲハの類は東南アジアに沢山いるようですが、なかなか日本ではなじみがないのでいまいちアゲハの仲間という感じがしないのですが(笑)、デレッセルタイマイの画像は翅はマダラですが、やはり胴体のつくりがアゲハだってことがしっかり分かりますね。
興味の尽きないアゲハたちです。
ボルネオ報告、また次回が楽しみです。
Commented by fanseab at 2012-12-29 21:16 x
dragonbutterさん、ムラサキマネシアゲハの成虫の擬態
は、それはそれは巧妙で、何度でも騙されそうです。
幼虫はPapilioと一緒で中齢までは鳥の糞に擬態していると
思われますが、Papilioと違いのは最終齢(5齢)でも緑色に
変化せずに黒地を基調とする点です。
Commented by fanseab at 2012-12-29 21:19 x
22wn3288さん、熱帯アジアでの擬態する蝶はその真似の
程度を観察するのも楽しみの一つです。オオゴマダラに擬態
するアゲハも♂はあまり飛び方まで似せていないので、すぐに
正体を見破ることができます。♀はなかなか出会えないのですが、もしかするとオオゴマダラだと騙されているのかもしれません。
Commented by fanseab at 2012-12-29 21:21 x
OTTOさん、マネシアゲハの仲間も触覚先端の形をよく見れば
アゲハであることが一目瞭然です。もちろん、脚が6本あることでも
マダラチョウではないと気が付きます。所変われば品変わる・・・
で、アゲハの仲間も奥が深いですね。
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