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探蝶逍遥記

ヒメアカタテハの産卵(10月中旬)

 ウラナミシジミ同様、秋口になると増えるのがヒメアカタテハ。多摩川縁のキバナコスモス畑にはいつも彼らが集っています。さて、今回の狙いは♀の産卵シーン撮影。食草のヨモギは堤防沿いの至る所に生えていますが、9月末頃に堤防沿いの一斉草刈りがされ、草丈が低くなっていたので、ここに来る♀を狙い打ちにすることにしました。正午過ぎから張り込んでいると、期待通り、♀が産卵を始めました。                                                                      ++画像はクリックで拡大されます++
ヒメアカタテハの産卵(10月中旬)_f0090680_2116049.jpg
D7K-34(トリミング)、ISO=200、F13-1/500、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時07分

 ヨモギの葉が垂直に立っているため、腹端は葉の影になって、見えません。腹端も卵も・・・と欲張りな絵はかなり難しそうです。この後、母蝶は飛び去らずに、同じ茎に生えている隣の葉に移動し、産卵をしようとしたのですが、ここで急に前脚をバタつかせる行動に出ました。管理人が愛読している「蝶の生物学(東京大学出版会、2005)、p278」によれば、
「最終的な寄主の認知と選好は、基本的に連打行動(drumming)の最中に植物中の化学成分を前脚跗節(foretarsus)の接触化学受容器(chemotactile receptor)で感知することによって行われる」と書かれています。将にこのシーンを観察できました。その画像です。
ヒメアカタテハの産卵(10月中旬)_f0090680_21162540.jpg
D7K-34(囲みはトリミング画像)、ISO=200、F11-1/500、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時07分

 タテハチョウの前脚はご存知の通り、退化して実質的に4本脚で行動していますが、♀は産卵に重要な感覚センサーが前脚にあるため、これを有効活用している訳です。普段、タテハの前脚が↑の絵のように伸びている場面は先ず観察できません。撮影時にも気が付きましたが、素早いピッチでdrummingしていることがわかりました。できればやはり静止画ではなく動画で記録を残したいものです。面白いのは既に産卵済みの葉に隣接した葉であるにも拘らず、認知行動を愚直に取っていることです。同じ茎、それもほぼ対生状態の葉ですから、ヨモギの葉に間違いないはずです。それでも母蝶は遺伝子に刷り込まれた通り、drummingによる選好チェックを実施しているのです。drummingを実施している時間はわずか1-2秒程ですので、通常、♀が産卵態勢に入った時には既にチェックが終わっていることが多く、なかなか選好行動を撮影することができません。この時は同じ茎内で複数回産卵したので、この場面を幸運にも目撃できた訳です。それと前脚のみならず、触覚を垂直下方に降ろし、さらにストローまで伸ばしています。前脚を含めた全ての感覚器官を総動員して認知行動を取っていることが伺えます。
 別の産卵シーンもアップしておきましょう。
ヒメアカタテハの産卵(10月中旬)_f0090680_21164761.jpg
D7K-34、ISO=200、F8-1/500、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時08分

 ここでも葉被りで「腹端と卵の同時写し込み」は実現できませんでした(^^; また認知行動の名残でしょうか、この絵でもストローは巻き戻す途中の状態になっています。 産卵をひとしきり終えると一旦日光浴か、近くにあるキバナコスモスで吸蜜して栄養補給です。
ヒメアカタテハの産卵(10月中旬)_f0090680_2117171.jpg
D7K-34、ISO=200、F8-1/640、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:13時11分

 この個体は縁毛の揃った綺麗な♀。ヒメアカの♂♀判定はそれほど易しくはないですが、♀個体の方が後翅表肛角付近の青鱗粉が鮮やかに載る特徴があるようです。橙と黒を基調とするデザインにあって、このブルーが翅全体をキリリと引締めていて、大変お洒落だと思います。

 産卵された卵の拡大撮影もしてみました。最初はお手軽に前玉外しで遊びました。
ヒメアカタテハの産卵(10月中旬)_f0090680_21173166.jpg
D7K-1855改@38mm(トリミング)、ISO=200、F29-1/250、-1.0EV、外部ストロボ+スレーブ1灯、撮影時刻:12時15分

 好みの葉にはこのように集中して産んでいます。次にStacked Lensでの拡大像です。
ヒメアカタテハの産卵(10月中旬)_f0090680_1561749.jpg
D7K-85VR-24R(トリミング+3コマ深度合成処理)、ISO=200、F29-1/320、-1.0EV、外部ストロボ+スレーブ1灯、撮影時刻:15時58分

 青緑色をしておりまして、離れて見た目には、ほとんどヨモギの葉と同化して見事な擬態とも言えます。形はクラゲを連想させますね。ネットで調べたら、「カブトクラゲ」に似ているような・・・。「クラゲの襞」の一部分はストロボ照射で明るく輝き、コントラストが飽和気味になって、ディテールが消えやすい傾向にあります。卵を覗きこむアングルを変え、2灯ライティングの照射位置も変えると、全体のディテール表現が少し改善できました。
ヒメアカタテハの産卵(10月中旬)_f0090680_1562818.jpg
D7K-85VR-24R(トリミング+3コマ深度合成処理)、ISO=200、F29-1/320、-1.0EV、外部ストロボ+スレーブ1灯、撮影時刻:16時02分

 この近くのヨモギの若葉をチェックしてみると、3割の確率でヒメアカの卵が見つかりました。いずれ葉を綴って隠れた幼虫を観察できることでしょう。そいつはまた晩秋のブログネタになりそうです(笑)
by fanseab | 2012-10-16 21:22 | | Comments(6)
Commented by dragonbutter at 2012-10-16 23:11
タテハの認知行動は知りませんでした。
貴重な写真をありがとうございました。
一瞬の行動のようなので知っていないと撮れませんね。
Commented by naoggio at 2012-10-17 20:39 x
ドラミング !
凄いシーンが撮影できましたね。感動しました。
そして卵の写真も素晴らしいです。
本当に繊細な襞の造形ですね。こちらも感動しました。
ありふれたヒメアカタテハでも掘り下げると素晴らしい撮影対象である事がわかりました。
Commented by fanseab at 2012-10-17 21:55 x
dragonbutterさん、食草認知行動について、小生も本記事でご紹介した本を読むまでは正確には知りませんでした。
台湾遠征記(25)でご紹介したリュウキュウアサギマダラでも類似の行動が示唆されることを述べていますが、今回は実際に食草を叩いている証拠写真として、初めて撮影できたものです。
産卵撮影に取り組む際、従来だと産卵直前に撮ったコマは「ゴミ画像」として消去してしまうことが多く、反省をしているところです。
タテハチョウ科でも種によって、この行動を確実に実施しているものとそうでないものが混在していると思います。今後、その点をもう少し調査したいと思っています。
Commented by fanseab at 2012-10-17 21:58 x
naoggioさん、実際に書物で書かれている行動が画像で記録できると嬉しいものです。もう少し調査範囲を拡げて、♀の産卵直前の行動を見ていきたいと思います。ブログ仲間の方も是非、注意を払って本認知行動に関して色々な事例をご紹介頂けると有難いです。
Commented by OTTO at 2012-10-18 17:58 x
ヒメアカタテハはいい蝶ですね~。

産卵直前に前足で食草を叩く行動は、ギフチョウでも観察したことがあります。科を越えて、共通の行動なんでしょうかね。
それにしても、写真のシャープなこと。惚れ惚れいたします。
こんな見事な写真で素晴らしい生態写真集でも作ってしまえるんでは?
Commented by fanseab at 2012-10-18 21:24 x
OTTOさん、秋口になって、蝶の姿が寂しくなるこの時期、やはりヒメアカは綺麗でかつ俊敏で魅力的な蝶です。ついつい追っかけをしてしまいます。通常ですと、キバナコスモスに来る個体を狙うのですけど、最近は産卵シーンに焦点を当てているので、いつもとは変わった行動に注目することができました。
本日更新したツバメシジミで産卵時にドラミングするか?注目して観察していましたが、明確な行動は確認できませんでした。殆ど瞬間的に前脚連打が完了する種もいるのだと思います。
この手の記録検証はやはり貴殿が得意とされている動画が活躍する分野だと思っております。
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