探蝶逍遥記

ミヤマチャバネセセリの越冬蛹探索

 10月30日付の記事でご紹介した首題セセリ幼生期観察のその後です。10/30に多摩川縁の2X3mの範囲内で全7個体を、更に後日、異なる2箇所で4個体を発見し、合計11個体を早朝観察中心に追跡調査しておりました。11/1より巣を離れて蛹化準備に入る個体が続出し、結局、懸命の捜索も空しく、3個体を除き全て行方不明となりました。では、何とか追跡できた3個体についてご紹介しましょう。

 最初は識別番号#3の個体。11/5-7の間に巣を離れ、11/8にクズの枯葉上に静止している前蛹を発見しました。2007年の秋口に同様の探索を実施して失敗に終わっていただけに、この前蛹の姿を見た時は飛び上がる位嬉しかったです(^^)                                                                    ++画像はクリックで拡大されます++
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D7K-85VR、ISO=400、F11-1/320、-0.7EV、内蔵ストロボ、撮影月日:11月8日

 前蛹体長は29mm(1円玉直径は20mm)。クズの葉は食草のオギの茎から20cmとさほど離れておらず、地上高は10cm。クズや食草のオギの茎に絡まって空間に浮いている枯葉を利用しています。発見時は丁度屋根のようにもう1枚の枯葉が乗っていましたので、撮影時にその葉は除去しておりますが、上向きの状態です。巣を綴った形跡はなく、ただ尾端の尾鉤を引っかける目的と思われる細い帯状の吐糸物が枯葉に形成されています。また前蛹の周辺には白色の蝋状粉末が散乱しています。雨滴を撥水させるためでしょうか?それまでの探索では、完璧に地上に降りるものと思い込んで、根際の地表を探しておりましたが、地上の枯葉を利用しているとは想定外で、これが盲点で発見が遅れました。屋根状のクズの枯葉を被せて現状復元し、更に継続観察し、11/14に無事蛹化したことを確認しました。
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D7K-85VR、ISO=800、F6.3-1/400、-0.7EV、外部ストロボ、撮影月日:11月14日

 幼虫の脱皮殻も残っています。また脱皮の際、相当激しく動いたのでしょう。帯蛹に利用された糸をすり抜けて、枯葉の上をコロコロ転がる状態になっておりました。尾鉤は全く機能していない状態です。実はこの8月、2化品終齢幼虫を採幼し、室内飼育を試みたのですけど、この時の前蛹期間が2日でした。秋口でかつ室外であることを考慮してもせいぜい4日前後で蛹化するものと予想していたので、前蛹期間7~9日は想定外の長さでした。しかし、文献を精査してみると、越冬前終齢幼虫の前蛹期間が長期間に及ぶことが既に指摘されておりました。独立行政法人・森林総合研究所の井上氏が実施した、茨城県つくば市での室外放置実験結果(※)を引用します。終齢幼虫を室外飼育して前蛹期間をまとめたもの。

10/20以前:平均前蛹期間4.5日(個体数6)
10/21-31:      同4.7日(同155)
11/1-10:       同6.3日(同145)
11/11-15:      同9.4日(同52)
11/16-20:      同19.8日(同12)
※ 井上大成、2009. Effects of temperature on the development of overwintering pupae of Pelopidas jansonis(Butler)(Lepidoptera,Hesperiidae).Trans. lepid. Soc. Japan 60(3):196-202.

 つくば市と管理人が観察している川崎市の標高・温度環境も異なりますが、11月上旬頃なら前蛹期間8日前後は妥当な結果でしょう。

 次は識別番号#2の個体。#3から僅か1.8m西方に位置しています。#2は11/2-4の間に巣を脱出したと見られます。#3前蛹がクズの葉に付いていた知見を頼りにクズの葉を徹底的に捲って調べると、いました!前蛹ではなく既に蛹化しておりました(11/9発見)。
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D7K-85VR、ISO=400、F11-1/320、-0.7EV、撮影月日:11月9日

 体長は30mm。こちらは地上高8cmにあるクズの枯葉の葉裏に蛹化しており、葉を裏返して撮影しています。ただ、探査時にクズの葉を捲る際、誤って蛹の体を少し圧したようで、右翅部分が少し凹んでしまっています。いやな予感がしましたが、果たして11/14の観察では蛹全体が黄変して、頭部が黒ずんで来ました。
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D7K-85VR、ISO=200、F10-1/400、-0.7EV、撮影月日:11月14日

 ちょっと越冬→羽化は厳しいかもしれません。この個体には申し訳ないことをしました。

 3番目の個体は識別番号#11。 #2,#3個体のポイントから西方に約300m離れた地点です。11/1に発見、11/5-7の間に巣を離れたと推定され、11/8に前蛹を発見しました。
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D7K-85VR、ISO=500、F11-1/200、-0.7EV、内蔵ストロボ、撮影月日:11月8日

 体長は28mm。ご覧のように食草のオギの枯葉と他のイネ科の葉を綴って台座を作っています。発見時は下向きに付いており、裏返しての撮影となりました。クズ同様、前蛹の周辺には白い蝋状粉末が散乱しております。ここの生息環境は#2,3とは異なり、クズは全く生えていません。クズやアレチウリが繁茂しているポイントではどうやらクズ等の枯葉を利用し、そうでない場合はその他の枯葉を利用、更にクズのように面積が広くない葉の場合は複数を吐糸して束ね、台座部分を確保する性質がありそうです。この前蛹は11/14に無事蛹化しました。
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D7K-85VR、ISO=200、F13-1/200、-0.7EV、内蔵ストロボ、撮影月日:11月14日

 体長は前蛹と同じ28mm。前蛹の画像と比較すると頭部の向きが逆で、前蛹画像撮影時はまだ前蛹の準備期間中だったことがわかります。また前蛹期間は8もしくは9日と推定され、ほぼ#3個体と同程度でした。#11個体も発見時の状態に現状復元させておきました。今後越冬中も随時状態確認をし、来春の羽化まで継続観察をしようと思っております。また今回の一連の観察結果は報文として投稿予定です。
by fanseab | 2011-11-20 22:19 | | Comments(12)
Commented by ダンダラ at 2011-11-19 11:35 x
fanseabさんらしい緻密な観察ですね。
クズの葉の場合とイネ化の場合とで吐糸の仕方が違うのも面白いです。
※PCの日付が一日ずれているみたいです
Commented by fanseab at 2011-11-19 20:34 x
ダンダラさん、ようやく前蛹・蛹を見出すことができました。相当狭い面積に固まっていたので、個々の捜索が比較的樂でした。今回の経験から、完全に食草その他が枯葉状態になると、捜索は大変厳しいことが実感できました。
PC日付のご指摘すみません。投稿日時設定のミスでした。
Commented by ma23 at 2011-11-20 15:34 x
ミヤマチャバネの観察、お疲れさまです。ミヤマチャバネ自体がこちらではかなり貴重なので、うらやましい限りです。昨日、従兄弟の結婚式で、新居が川崎市でした。ここからは多摩川のミヤマチャバネにはアクセス可能でしょうか?あそびに行くついでに、来シーズンに狙おうと企ててます。
Commented by banyan10 at 2011-11-21 09:12
これは素晴らしいですね。おめでとうございます。
幼虫を見つけておかないと蛹は難しいと思っていましたが、参考にして少し探してみたくなりました。
Commented by naoggio at 2011-11-21 14:27 x
とうとう蛹化まで観察されたんですね。
おめでとうございます、そしてお疲れさまでした。
野外でのこのような観察は容易でないと思いますがすごいです。
すっとしたスマートな蛹ですね。
Commented by fanseab at 2011-11-22 21:47 x
ma23さん、コメントありがとうございます。こちらに来られる時はご連絡下さい。気候としては1化が一番お勧めです。
Commented by fanseab at 2011-11-22 21:58 x
BANYANさん、前蛹期間が異常に長いとか、色々と面白いセセリです。蛹の色が緑色で保護色でないので、一見簡単そうですが、意外と難しいです。是非、チャレンジして下さい。
Commented by fanseab at 2011-11-22 22:06 x
naoggioさん、何とか発見までたどり着けました。褐色の枯れ葉からひょっこり緑色の前蛹や蛹が現れた時の感動は忘れられませんね。
Commented by 久保田 at 2011-11-25 18:47 x
多摩川のミヤマチャベネセセリ、私も数ヶ所集中して見られる場所を確認しています。ここでは年3化なので、来年は幼虫にも出会い、最終確認をしたいです。
Commented by fanseab at 2011-11-26 21:02 x
久保田様、拙ブログへのコメント有難うございます。貴サイトはとても参考になるので、いつも拝見させて頂いております。
こちらのポイントも貴殿が観察されている地点からそう離れた場所ではなく、年3化だと思っております。幼虫を見つけるのはさほど難しいことではありません。巣の作り方と食痕が独特なので、すぐに発見できると思います。
Commented by himeoo27 at 2011-11-27 16:47
ミヤマチャバネセセリ幼虫~蛹の継続観察素晴らしいですね!
偶然1頭だけ幼虫を見つけた私には、とても難しそうに感じます。
成虫が減り、下草が枯れる、この時期幼虫探しにチャレンジして
みようかな?
Commented by fanseab at 2011-11-27 22:49 x
himeooさん、コメント有難うございます。
今回の観察より、ミヤマチャバネの場合、確かにある程度の幼虫個体数を確保しないと蛹の発見は相当に厳しいことを思い知らされました。ただ完全に下草が枯れると逆に巣の特徴も見難くなりますので、できれば秋口の早い時期からの継続観察をお勧めします。最新記事に関連内容をアップしましたので、これも参考に願います。
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