探蝶逍遥記

信州のベニヒカゲ(8月18日)

 昨年もお盆休みに八ヶ岳山麓でベニヒカゲを撮影しておりました。今年は少し場所を変えてのErebia探索です。18日前後は天候が読めず苦労しました。早朝は小雨が降っており、山間部にはガスがかかる状態。ポイントに着くと薄日が差しており、ヤレヤレと胸をなで下ろします。7時40分を過ぎてようやく1頭の♂が出現。先ずはこの個体を追いかけてパチリ。                                                                                        ++横位置画像はクリックで拡大されます++
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D7K-34、ISO=400、F10-1/400、-0.7EV、撮影時刻:7時53分

 前夜からの雨がまだ笹の葉上に残っております。朝方は比較的おとなしいので、助かりますね。ちょっと舞っては直ぐに開翅してくれました。
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D7K-34、ISO=400、F10-1/500、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:7時56分

 活発になってくると、こんなベタ開翅画像を撮るのも敏感で一苦労しますが、ここは未だそんな状態ではありませんでした。この時期、♂が最盛期で、♀は出始めの印象です。♀は極めて不活発で、笹原の上をヨロヨロと飛んでは直ぐに開翅です。
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D90-85VR、ISO=640、F5-1/4000、-0.7EV、撮影時刻:8時41分

 2枚目の♂と比較すると、腹の太さ、体幹と翅のバランス、やはり♂との翅形差がはっきりしています。それよりなにより今回撮影して気が付いたのが、縁毛の色差です。♀は綺麗な白色(厳密には薄いベージュ)で縁取られるのに対し、♂は翅の地色と同じで縁毛があまり目立ちません。縁毛フェチの管理人としては、どうしても♀に感情移入してしまいます(^^) いつも思うのですけど、縁毛の色とか幅の微妙な差は標本を図示している図鑑では殆ど表現できていません。図鑑の背景色は標本全体の色調を正確に表現するため、通常白色で編集されています。一方、縁毛色は通常白~ベージュ色なので、図鑑上では背景色の白に紛れて、縁毛の幅や形状を評価することが殆ど不可能なのです。ベニヒカゲも然り。G社出版の「日本産蝶類標準図鑑」を参照しても、上述したベニの縁毛の違い等、全く読み取ることはできません。この図鑑でも不思議なことにツマジロウラジャノメの図版(#101-102)では背景色がグレーになっているため、縁毛の差がハッキリと読み取れます。

 ちょっと縁毛で脱線してしまいました。さて、綺麗な♂を追跡途中、急に葉上にダイビングするように落ちました。「変だな~」と思ったら、何と、交尾個体にアタックをかけていたのでした。
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D90-85VR、ISO=400、F9-1/500、-0.7EV、撮影時刻:9時47分

 右の2個体が交尾ペア。一番デカいのが割り込みをした♂です。この♂は直ぐに諦めて飛び立ち、その際のショックで、交尾ペアは下草に落ちました。
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D90-85VR、ISO=200、F9-1/320、-0.7EV、撮影時刻:9時51分

 管理人はベニヒカゲの交尾事例を観察するのはこれが初めて。興奮しての撮影でした。上♀、下♂です。♀のこの裏面、褐色の地色にグラデーションがかかり、何とも言えない上品な味があります。ベニヒカゲの裏面がこんなに綺麗だとは想像もできませんでした。また後翅を貫く帯紋は黄色型です。白色型と2型あるようですが、黄色型なので、上品さがより際立っているように思いました。撮影後、試しに交尾ペアを飛ばそうとしても、♀主導で動きはしますが殆ど飛べないようです。この後、約1時間して現場に戻ってみると、既にペアの姿は消えていました。

 ♂は陽射しが強くなった午前8時頃から延々と探♀活動を始め、なかなか静止してくれません。それでも10時頃から探♀の途中に吸蜜に訪れる時間が増えたように思います。最初はアザミでの♂吸蜜。
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D7K-24、ISO=500、F11-1/800、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時30分

 この絵、完璧な露出失敗(シャッター速度が速すぎた!)作品です。それは置いといて、ベニの眼状紋にご注目ください。前翅第2室の眼状紋が完全に消失し、同第4,5室のそれもかなり縮退しております。2枚目の♂、3枚目の♀の眼状紋と比較すると、その変異が明らかです。ベニの場合はこうした眼状紋の変化を楽しむのが正道なのでしょう。「各山塊毎に亜種がある・・・」との説もあるくらいですから。お次はヤマハハコからの吸蜜。
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GXR@5.1mm(トリミング)、ISO=100、F9.1-1/160、-0.7EV、撮影時刻:11時22分

 ヤマハハコは地味ながら、いかにも高所に咲く風情があって、ベニの吸蜜シーンとして、お気に入りの絵になりました。締めは飛翔です。ここのベニは八ヶ岳山麓の個体と異なり不規則な飛び方をしないので、比較的楽に撮影できたと思います。なお撮影個体はいずれも♂だと思います。
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D7K-24(ノートリ)、ISO=640、F10-1/5000、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:8時18分
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D7K-24(トリミング)、ISO=1000、F9-1/4000、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:9時00分
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D7K-24(ノートリ)、ISO=640、F6.3-1/4000、-0.7EV、外部ストロボ、撮影時刻:10時59分

 1枚目は食草であるスゲ類の小穂(しょうすい)で翅面が隠されています。いつもなら没画像にしますが、ベニヒカゲの探♀飛翔の特徴が良く出た絵なので、採用しました。2枚目は画面の端に入った個体を活かすべく、縦位置トリミングしたもの。管理人は「ジャスピン個体、画面端の法則」と呼んでおりますが、不思議なことにジャスピンで撮れる飛翔個体は画面の端に写っていることが多いのです。3枚目は少し雲行きが怪しくなってきた頃の飛翔個体。ワラビ類の上も含め、♂のパトロール範囲は相当広範囲に及ぶようです。十分にベニヒカゲの撮影を楽しんだので、正午前にポイントを後にしました。

 なお、現地では、この地域の個体群に詳しいIさんご夫妻に詳細な情報提供含め、大変お世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
by fanseab | 2011-08-28 21:51 | | Comments(14)
Commented by yoda-1 at 2011-08-28 22:09
交尾の雌の翅裏模様というか質感がなんともいえない美しさですね。
昔紫式部が羽織っていたような織物を想起します。
各飛翔画像も決まっていますが、アサミ吸蜜シーンの外部フラッシュは、また独特の印象を与えますね。
Commented by fanseab at 2011-08-28 22:41 x
yoda-1さん、♀の後翅裏面の帯状紋の色調は本文でも述べたように、黄色型と白色型がありますが、裏面全体が淡い黄色を帯びているので、ご指摘のようにデリケートな質感があります。紫式部ですか?ちょっと勉強してみます。
アザミのシーン、それまで陽射しが強い中でヒョウモン類を設定してままの撮影での失敗です。急に曇って陽が翳った時に吸蜜を始めて、そのままの条件で撮影してしまいました。スローシンクロで撮影しないと、このようにへんてこりんな絵になってしまいます。
Commented by konty33 at 2011-08-28 23:33
八ヶ岳山麓でのベニヒカゲは今年空振りに終わったので大変羨ましく拝見しました。
特に、交尾は見てみたいですね。yodaさんもコメントされていますが、♀の翅裏が何とも言えない魅力です。
「ジャスピン個体、画面端の法則」はkontyも同感です。いつもそうなんです何故ですかね?
Commented by ヘムレン at 2011-08-29 05:47 x
♀の縁取りはやはり美しいですね。裏面も独特ですね。
交尾・・・はじめて見たように思います。素晴らしいです(^^)Y
ヤマハハコは好きな花です。
八ヶ岳山麓では、気軽に見られる場所が少なくなったように思います。
Commented by naoggio at 2011-08-29 18:50 x
素晴らしい写真の数々、圧倒されました。
3枚目のメスはまるでクモマベニヒカゲのようですね。
交尾写真のメスの裏翅もエキゾチックで実に新鮮に目に映りました。
なんだか大陸的です。
アザミの吸蜜、写真自体インパクトがあって好きですが、蝶も黒点の少ないタイプで変わっていて面白いです。
飛翔は相変わらず名人芸です。
Commented by banyan10 at 2011-08-29 20:26
斑紋消失は探していますが、なかなか見付かりません。
交尾も観察は一度だけです。
飛翔の法則は僕も納得です。(笑)
僕はこの週末に浅間山系で撮影してきましたが、綺麗な個体は大部分が雌でした。
Commented by himeoo27 at 2011-08-29 20:50
ベニヒカゲの交尾の写真初めて拝見しました。
♀の裏面本当に綺麗ですね!
Commented by fanseab at 2011-08-29 23:41 x
kontyさん、今回は初体験の場所でベニを撮影しました。これまでで一番真面目に取り組んだ感じで、それなりの成果が出ました。やはり交尾個体に出会えたのは最高で、良い思い出になりました。♀裏綺麗でしょ!「画面端の法則」はやはり置きピン位置の感覚的なズレが原因だと思います。
Commented by fanseab at 2011-08-29 23:43 x
ヘムレンさん、コメント有難うございます。
新鮮な蝶の縁毛は独特な美しさがあると思い、拘って撮影しています。渋い色調のベニの場合、白い縁毛はより美しさが引き立つように感じられます。ヤマハハコはじっくり見るのはこれが初めてでしたが、ベニとの相性が良いようです。
Commented by fanseab at 2011-08-29 23:46 x
naoggioさん、いつもコメント有難うございます。3枚目の♀は翅表の橙色の部分の拡がりが顕著で、すごく明るい印象を受けました。裏面は別のErebiaみたいな印象を受けるほど、インパクトがありました。
Commented by fanseab at 2011-08-29 23:48 x
BANYANさん、この機会に図鑑上で色々なベニの斑紋変異を調べてみました。眼状紋の縮退はそれほど稀な事例ではなさそうですね。でも、完全に消失するのは稀みたいです。交尾を既に観察されているとは流石です。浅間山系の画像も拝見しました。背景が素晴らしい場所ですね。
Commented by fanseab at 2011-08-29 23:50 x
himeooさん、交尾画像の場合、いつも♂はどっちだろう・・・、♀はこっちかな?と頭を悩ませますが、今回はあまりにも明白で、かつ独特な♀の裏面に魅了されました。
Commented by ダンダラ at 2011-08-30 08:11 x
ベニヒカゲの交尾はさすがの写真ですね。
発生地では個体数は多くてもなかなか交尾個体にはお目にかかりませんよね。
私も過去2回しか撮影していないです。
でもこんなにきれいには撮れていないのでうらやましいです。
Commented by fanseab at 2011-08-30 22:13 x
ダンダラさん、経験豊富な貴殿でも2回しか撮影されていないのですね。ベニヒカゲを真面目に撮影したのは今回小生初めてですので、ラッキーだったのでしょう。風が遮られた場所での交尾だったので、ブレずにじっくりと撮影できてよかったです。
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