探蝶逍遥記

日本鱗翅学会第57回大会出席(10月31日)

 台風14号が駆け抜けた先週末は期待された台風一過の晴れも実現せず、どんよりとした2日間でした。さて、日曜日に管理人が所属する首題学会に参加してきました。所用の関係で出席できたのは日曜の午前中のみ。土曜&懇親会は残念ながら欠席。この学会に加入してから、かれこれ17年ほど経ちますが、学会本大会に出席するのはこれが初体験。本大会は結構地方で開催されるので、参加するチャンスが意外となかったのです。ところが、今回は30数年ぶりに東京で開催されたもの。会場の東大には9時過ぎに到着。A会場(弥生会館)を聴講しました。午前中の10講演はいずれも骨のある中身で、あっという間に3時間が過ぎた感じです。

 講演内容をざっとレビューしてみましょうね。「上高地の歴史とチョウ類群集の変遷」は信州大グループの発表。この夏、管理人が初めて訪れた上高地の開発の歴史を紐解く解説は大変参考になりました。75年前、徳沢園は牧場だったこと、牧場が廃止されてからの蝶相の変化も興味深いものでした。以下、講演画像は全てカシオFC-150で撮影。                                                                   ++画像はクリックで拡大されます++
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 ただ、後半の地質史との相関は少し駆け足すぎて強引な論調が気になりました。次に面白かったのが、アサギマダラ♂の性フェロモン生合成プロセスを追及している広島大グループの「アサギマダラの配偶行動とアルカロイド」。夏の高原でヒヨドリバナ等からピロリジジンアルカロイド(PA)を吸収して体内で性フェロモンであるダナイドンを合成すること。このダナイドンが先ず後翅の性標で形成され、尾端のヘアペンシルを性標に物理的に擦り付ける「匂い付け」行動でヘアペンシルに蓄積されるというもの。さらに興味深い話は、♂がアルカロイドを触覚のみならず、前脚にも臭いセンサーが存在して、ここで匂いを嗅ぎ分ける能力があること。タテハチョウの前脚がただ退化するだけでなく、特殊なセンサーとして機能分化した点には驚きでした。
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 この講演で紹介された♂の「匂い付け行動」をネットで調べたところ、数枚の生態画像がみつかりました。ただ、画像の質は悪く、我々ブログ仲間の実力なら、もう少し鮮明な絵が撮れると思います。来シーズンの課題の一つにしたらどうでしょうか。ただ、♂は羽化して直ぐにアルカロイドの吸収に走るのではなく、1週間程度、性成熟に時間をかけるようです。真夏のヒヨドリバナ吸蜜を終えた後あたりが撮影チャンスになるのでしょうね。ついでに安曇野で撮影したアルカロイドを吸汁補給するアサギマダラ♂の画像をアップしておきましょう。
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D90-1855VR@55mm-gr8、ISO=400、F22-1/80、-0.7EV、外部ストロボ、撮影年月日・時刻:2009年9月13日、11時39分

 研究を率いる本田先生の研究材料はどうしても、飼育の楽な国内産マダラチョウに限定されるのは仕方ないですが、先生の話を聞いていると、①Parantica属内で嗜好するアルカロイド化学構造は一定の傾向を示すのか?②生成される性フェロモンの成分比(ダナイドン/ヒドロキシダナイドール)は属内で一定比に収束するのか?③キク科植物の進化(含有アルカロイドの構造変化)とマダラチョウの進化との相関等、研究テーマは沢山転がっているように思います。今後の研究の進展に期待大です。

 東南アジアの蝶フリークにとって、最も聞きたかったのが、九大の矢田先生の「ベニシロチョウAppias neroの分類と多型(シロチョウ科)」。先生は昨年の日本蝶類学会(テングアゲハ)大会で、nerogalba(インド北部から海南島に分布)とnero(ボルネオ等に分布)に細分化する話をされました。今回は更に♀の多型に注目してフィリッピン群島産(A.nero palawanica等)を種昇格させようとの試み。
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 管理人にとって、東南アジアのシロチョウ類でnero種群はお気に入りの仲間ですけど、未だgalbaは南ベトナムで目撃したことはあるものの未撮影。しかもフィリッピン産が仮に種昇格となると、これまた猛烈に写欲をそそります。ただ治安の悪いフィリッピン群島に一人で出かける勇気もなく、当面はgalbaの撮影に専心することになりそうです。北ボルネオ・サバ州で撮影したneroの1亜種chelidonをご紹介しておきましょう。
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D70(トリミング)、ISO=500、F5.6-1/800、-0.7EV、撮影年月日・時刻:2008年5月2日、12時20分

 講演で紹介された外縁が幅広く真っ黒になったフィリッピン産亜種(ssp.domitia)の♀は異様ですね。カザリシロ(Delias属)への擬態を連想させます。それにしても、矢田先生の話はロジカルで明快、パワポの資料も秀逸で役に立ちました。


 午前中の最後はこれまた弁舌爽やかな大阪府立大・石井先生の「チャマダラセセリの温度・日長反応」。幼虫の日長反応の詳細よりも、むしろ冒頭に話された「チャマを温室ドームで飼育してドームの周辺に整備したキジムシロの畑で復元する・・・」といった壮大なコンセプトに感動いたしました。絶滅危惧Ⅰ類の本種の保全は相当に難しそうに思いましたが、講演中で紹介された「粉末状人工飼料で思いのほか、順調に育つ・・・」事実は、保全の将来にとって、何か明るい光が差したように思いました。
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 今回の学会では、パネルディスカッションコーナーも併設されていました。注目されたのは、中高生パネラーによる発表。恐らく事務局が意図的に招待した試みでしょう。おっさん連中が主体の学会にあって、フレッシュな蝶屋(の卵?)は本当に心強く感じました(管理人ももちろん「おっさん」ですので、強くそう感じた次第)。

 初めて参加した本大会。やはりネットでは得られない面白い話が聞けました。興味ある読者の方(もちろん「おっさん」でも結構ですよ)、是非入会されることをお勧めします。入会案内は こちら をご覧ください。
by fanseab | 2010-11-03 23:22 | | Comments(6)
Commented by ヘムレン at 2010-11-04 20:17 x
行かれたのですね。
アサギマダラの匂い付け・・・面白いですね。
ヒヨドリバナに集まる・・というのは、そういう意味もあったのでしょうか。目立つ仕草ではないので、着目した方もすごいですね(^^)
Commented by himeoo27 at 2010-11-04 20:38
私は、31日午後から行われた「アサギマダラプロジェクト」の栗田さんの講演と、佼成学園高等学校や多摩大学附属中学の「アカボシゴマダラ」のポスター発表を興味深く聞きました。
Commented by fanseab at 2010-11-05 07:09 x
ヘムレンさん、コメント有難うございます。行って為になる大会でした。本当は午後の講演も聞きたかったのですが…。アサギマダラの匂い付けは確かに不思議な行動です。性標があるのに、更にヘアペンシルを備えている理由が分かったような気がします。
Commented by fanseab at 2010-11-05 07:15 x
himeooさん、当日はご挨拶だけで、お話しすることもできず、失礼いたしました。栗田さんのも含め、午後のシンポジウムに出席できず、残念でした。高校生達のポスター発表も素晴らしかったと思います。
Commented by yoda-1 at 2010-11-08 18:08
ちょうど、YODAが怠けていた講義がまとめられていて、非常に有意義です。
折角お会いできたのに、歓談できすに惜しいことをしました。
Commented by fanseab at 2010-11-08 23:34 x
yoda-1さん、こちらこそ、お話できる時間がなくて残念でした。来月あたりチャンスがあるかもしれませんので、その時はよろしく。
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