探蝶逍遥記

翳りゆく楽園(2月23日)

 拙ブログでは初めての書籍紹介です。管理人もネットの時代になって、本を読む時間がめっきり減りましたが、時々思い出したように読書をしたくなる時があります。今回ご紹介するのは、今話題の生物多様性を扱った書籍で、原題は、「Out of Eden: An Odyssey of Ecological Invation 」。テーマは、外来種が在来の生態系にどのような影響を与えるのか。米国内の様々な事例を引用して詳細に語られています。

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 管理人が居住する神奈川県内では、人為的に導入されたアカボシゴマダラが外来種としては異常に繁殖し、在来種、ゴマダラチョウとの競合が議論されています。北海道では、オオモンシロチョウ、カラフトセセリが、ちょっと昔には沖縄のバナナセセリ・・・。蝶の世界でも外来種は結構ありますね。

 ただ、この本では残念ながら?蝶の事例は一つも紹介されていません。むしろ、我々の知らない爬虫類や海洋生物における外来種の侵略ストーリーが極めて興味深く語られています。グアム島に侵入したミナミオオガシラヘビがグアム島在来の野鳥をことごとく絶滅に追いやったエピソードでは、このヘビの行動パターンを知るため、夜中に懐中電灯をかざしながらグアムのジャングル内を彷徨い、ヘビに赤い糸をつけての追跡等、昼間に生態を追跡できる蝶とは比較にならない観察の難しさがわかります。

 一方、在来種の生態調査では、ハワイ島・キラウエア火山が作り出した溶岩トンネル内に生息するウンカ類の探索が面白いです。真っ暗闇の世界で地上から延びる在来植物、オヒアの根から吸汁するウンカ類は、求愛行動に♂が腹を振動させて、オヒアの根を共振させ、♀をおびき寄せるのだとか。 
彼らの愛の媒介をするオヒアが外来植物に侵略されて減少することが、ウンカの運命を左右している。。。。生態系とは本当に複雑に絡み合ったジグソーパズルのようなものだと思います。それにしても、真っ暗闇の溶岩トンネル内で、狭いトンネルを潜り抜けるため、体中傷だらけになって、ウンカを調査する研究者の苦労も大変なものだと思いました。

 先日、「チョウ類保全協会の集い」に参加し、「生物多様性の保全」について考える機会がありました。
ただ、この本を読んだ後、特定の蝶を保全することが、果たして生物多様性の保全に繋がるか?少し疑問を持つようになりました。例えば、ギフチョウを保全するため雑木林の下草を刈る作業があります。この時、この下草内に棲む在来の貴重な雑昆虫種が生息しているとしましょう。この昆虫が下草を刈られると、絶滅に追いやられる危機があるとした時、ギフを残すことと、その昆虫を保全することは完璧に矛盾します。『ギフを絶滅に追いやったのも人間のエゴであるならば、ギフを保全するのも人間(蝶屋)のエゴである』。複雑なジグソーパズルは簡単に解けないなぁ~と思っています。普段そんな思考パターンを蝶屋はしませんけど、この本を読んで、チョウの保全を少し広い視野から考えることが重要だなと気づかされました。一読をお勧めする好著です。


「翳りゆく楽園」
アラン・バーディック著、伊東和子訳
ランダムハウス講談社刊、ISBM978-4-270-00532-3
2400円
by fanseab | 2010-02-22 23:21 | 書籍 | Comments(8)
Commented by chochoensis at 2010-02-23 19:48
fanseabさん、感想の最後の7行は凄くジーンときました・・・生態系の保護・保全の基本的な考え方をもう一度考えてしまう気持ちになりました・・・野鳥の保護も同じことが言えるので、つい、ウ~ンとうなりました・・・。
Commented by fanseab at 2010-02-23 21:22 x
chochoensisさん、この本は相当に読み応えがあります。特に我々が在来種と見做している種が実は外来種だった…。こんな常識を覆す記述が新鮮で、読み進むに連れて生態系の保全活動の難しさを問題提起しています。野鳥の記述も面白いですよ!
Commented by himeoo27 at 2010-02-23 21:41
植物の保全をされている先生が、
「セイタカアワダチソウ」を親の敵のように言うので、
素人チョウ写真家にとって貴重な蝶とセットの被写体
なのでそれほど敵視しなくても!と反論したことがあ
りました。
しかし、セイタカアワダチソウの単純な大きさ、生命
力だけでなく、蝶を集める力によって日本古来の植物
の受粉が阻害されているという指摘はズキン!ときま
した。

この方や森林総研の研究員など多くの方々の研究によ
ると、雑木林の下草刈りなど「適度に」人間が介入し
た方が生物多様性が保持されるそうです。

蝶だけでなく他の昆虫、それらの棲む植物などの環境
を総合的に考えると面白いですが、何が真実か考えこ
んでしまいます。

Commented by fanseab at 2010-02-23 23:38 x
himeooさん、この本では「日本古来の植物」って本当に「古来」なのか?疑問を呈しています。例えば500年ほど前、中国から渡来した植物を「古来」と呼んでも不思議でない場合があるでしょう。在来種の定義が実は曖昧なものである・・・。これ実に含蓄に富む表現だと思っています。
Commented at 2010-02-24 00:37
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by fanseab at 2010-02-24 23:49 x
鍵コメさん、情報提供有難うございます。
未読ですので、探してみようと思います。
Commented by ma23 at 2010-03-02 22:12 x
ご無沙汰してます。生物多様性の保全・・なんと難しい。私もこないだ保全の集いに参加して、いろいろ考える機会をいただいたまではいいのですが、さいごはどうしてもヒトが悪くなるストーリが多いんですよ。困った困ったです。
Commented by fanseab at 2010-03-03 07:35 x
ma23さん、こちらこそご無沙汰しています。そちらの保全協会の集いにも参加したかったです。ご指摘の通り、ヒトが地球上に出現してから多様性が崩壊していった…のは残念ながら事実のようです。その事実を全員が認識することが保全の前提だと思います。
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